第30話

 ラパパは、ティケティスの元に来るまでキュラスという群島国家で副騎士団長していた。ティケティス海賊団の副船長になったのは数奇な運命によって導かれた結果だ。

 

 けれど、ラパパは今の自分が好きだった。騎士団にいた頃より自分らしくあれるし、日々新鮮な体験ばかりで飽きることがない。


 その飽きる事ない日常というのは、良くも悪くも新しい事だらけのため、その分苦労も多い。副船長という役があるから尚更。それに、船長のティケティスは直情型で数ヶ月かけて綿密に作り上げた計画を、その日の思いつきで変えて実行してしまうことが多い。

 

 それが実際上手くいため責めきれない。

 

 今回のクラウティスとの取り引きだってそうだ。クラマ商会の伝手で紹介されたクラウティスの仕事。アザリとの戦争を早めに終結させるため、多くの捕虜を集め、場合によってはアザリ側につく島への略奪行為を請け負った。


 ティケティス海賊団には特定の島や宗教、思想など偏った行動理由はない。必要なのはティケティスの意思と、大量の報酬だけ。

 クラウティスからの仕事は随分わりが良かった。相手はほとんど素人で、稀に抵抗して来たとしても負けるはずがなく、一方的に捕まえ、奪い、その報酬をクラウティスからたんまり貰っていた。


 数回取り引きをした後、ティケティスは何か思うところがあったようだが、ここ最近は自ら略奪や戦闘を起こさず仕事を請け負うスタンスをとっているため、仕事を持っている現状を変えるほどの踏ん切りはつけていなかった。


 しかし、その後クラウティス内の裏切りによって状況は二転三転とし、今ではドワーフの島バルインで世話になっている。数日前まではアザリ側の島を襲っていたのに、助けられたのはそのアザリ側のバルインというのはなんとも皮肉な話だ。


 ティケティスの指示で、それぞれが役割を果たしてバルインの復興、延いてはアザリの再興のために日々尽力している。

 副船長であるラパパはその能力の高さゆえ、いくつかの作業の補佐にまわっている。


 この日もラウスが指示役としてまとめる倉庫建築班の手伝いをしている時だった。

 

「ラパパ、旦那が呼んでました。」

 資材を取って帰ってきたらラウスがラパパに伝言する。

「要件は?」

「タマリがなんとかって、」

「タマリは今パドと、エルフの兄ちゃんとアクバィラウに行ってるはずだろ?」

「はい、たぶん。そのアクバィラウでの話っぽいです。」

「わかった。ありがとう。」


 作業をやめ、ティケティスの元へ向かう。ラウスの言う通り、ティケティスは1番大きな船の船首に腰掛けており、ラパパを見つけると大きく手を振って来た。

 

「船長、要件って、」

「いいからここまで来い。タマリから話があるってよ。」

 ラパパは船から垂れる縄を掴み、登っていく。船にはティケティスの姿しか見えない。

「その、タマリは?」

「これだよ、」

 ティケティスの左手には通信の魔道具が握られていた。

「ああ、なるほど。」

「ほら、タマリから大事な話があるってよ。」


 貴重品である魔道具をタマリに持たせて向かわせた事も驚きだが、そんな貴重品の魔道具を投げて渡してくる事も驚くしかない。

 

「おお、っと、」慎重にキャッチし、魔道具に耳を当てる。

「ラパパ聞こえるー?」

 タマリの声だ。

「あぁ、聞こえるよ。それで、なんの要件だ。そっちは今大事な話し合いしているんじゃないのか。」

「そうそう。その話し合いの結果、ラパパにお願いする事ができたからか連絡してるの。」

「お願い?」

「今からハウマンと何人か連れてさ、アクバィラウに攻め来て欲しいんだ。」

「は??」


 ――――――――――――――――――――――――――――


 海賊来訪の知らせを聞いたシゥ・ラウは指示を飛ばす。本来ならジ・ラウの仕事だが仮にジ・ラウが声を上げても誰も言う事を聞かないだろう。


 シゥ・ラウはまず数人の男衆を集め、鉄具のある倉庫へ向かうように指示。それ以外の男たちは石や木片をとりあえず携帯し、海岸へ向かう。女、子どもは聖堂の地下に続くを道を使い隠れておくように指示を出した。


 余計なことをされては困ると、リオンはシゥ・ラウと、パドンカ、ジ・ラウは女子どもの護衛に別々にされた。

 この分断にも思惑があり、リオンを自分の味方、つまりアクバィラウ陣営に組み込みたいという策略だった。


「リオン殿、先ほどは不躾な言い方、失礼しました。ありもしない言い掛かりをつけられてしまい、儂もつい熱が入ってしまいました。」

 リオンが思った通り、シゥは馴れ馴れしく話しかけて来た。リオンは澄まし顔を崩さずシゥ・ラウの問いかけに頷くだけ。馴れ合うつもりはないという態度を貫く。

 その様子を見て、シゥ・ラウは態度を一変させる。


「なぁ、邪精霊、お前らは困ってるんじゃろ?ジの仲間やっててもここらが限界。意地にならんと儂とクラウティスを味方につけた方が賢明じゃ。」

 

 邪精霊はエルフに示す差別用語として一般的に広がっている。シゥ・ラウはリオンを格下と認定したようだ。クラウティスへの手土産としてエルフの手下でもいればと思ったのだろう、誰かが聞けば一発で終わりのはずだがリオンへ圧をかけるために、クラウティスの名を使っている。


 リオンへの勧誘を続けるが、当のリオンはそっけない態度をとる。

「この邪精霊、いい加減に、」

「シゥ・ラウ殿。まもなく海岸のようですよ。皆さんがお待ちしてます。」

「くっ、後で後悔しても遅いからな。変態貴族どもに売り飛ばしてやるわ。」


 最後までシゥ・ラウは不遜な態度を取り続け、リオンも澄ました様子で受け流していた。


「あれです、海賊は。」

 

 海岸から見える位置に一隻の船。船の大きさ的に10人以上の乗組員がいると推定できる。

 シゥ・ラウはその船を凝視し、あるものを探していた。もし、そうならシゥ・ラウにとってはまたとないチャンスが訪れた事を意味し、そうでなかったとしても、ある程度食料さえ分ければ襲ってくる事はない。統率力と毅然とした態度を評価され島内での評価は鰻登りだろう。

 

 つまり、どっちに転んでもシゥ・ラウは得をするの絶好の機会であると捉えていた。


 どこだ、どこだ、どこ、あぁ、見つけた。

 シゥ・ラウは歓喜する。書状を送ったのが思ったより早く着いたのだろう。海賊を装ったクラウティスの船団によって、この島は襲われるが、シゥ・ラウの交渉と、現首長マデ・ラウの犠牲によってアクバィラウは、クラウティスの属島になるが安全が保障され、シゥ・ラウが実権を握るその算段が整った。


 まさかこんなタイミングよく来るとは。対抗馬のジ・ラウの信頼が落ちたちょうどのタイミング。島の統率者として無意識下に植え付ける事のできたタイミング。まさに自分は神の寵児なのだと実感する。


 海賊船にはためく一つ旗。クラウティスが裏でやっている海賊稼業の海賊旗である事をシゥ・ラウは確かめたのだ。

 この旗がラパパがハウマンに聞いて急拵えされたものとは知らず、意気揚々とシゥ・ラウは海岸ギリギリに立ち海賊船に向けて声を上げる。


「儂が代表者じゃ!一歩もこの島には踏み入れさせんぞ!」

 シゥ・ラウの強気な発言に島民は湧き立つ。背中に集まる視線は英雄に向けるそれと同じだった。

 


 

 


 

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