第26話
「それで、私と一緒で良かったのか。」
リオンの帆船はいつもより船体が海と密接している。ゴドとティケティスを乗せた時よりも深めに沈んでいる。
「船長にも言われただ。リオンの手伝いしてやれって。」
パドンカは大きな欠伸をしながら、目を細めて笑う。岩窟で出会った時は褐色で身体の大きな人間だと思っていたが、日の出ている明るい場所で見ると、日焼けしたハーフマーマンで、母がマーマン、父がハーフリザードマンという異種族の両親を持つ男だった。
ちなみに両親の情報は種族と性別くらいで、パドンカにとっては親という意識は相当希薄だ。ティケティス海賊団が家族であり、ティケティスが父のようなものだ。
そして船にはもう1人。
「こういうのは1人でやったってしょうがないでしょ。」
ノームの少女タマリが船首に座っている。彼女がリオンに同行するのもティケティスからの指示だった。
というのも、リオンがゴド達の前で言った交易を立て直すという発言。実際やろうとすると数年かかる問題で、リオンの時間感覚では問題ないかもしれないが、島民の種類によってはこの数年という期間が死活問題になりかねない。
そこで、一連の話を聞いたティケティスがある考えを思いついた。
ゴド達からも話を聞き、その考えは現実味のあるものとして計画されて現在に至る。
その計画はこうだ。
今現在、食糧不足が顕著に現れている島は思ったより多くない。なぜなら、アザリのような資産を多く持ち広い土地と多くの住民を抱える島と、バルインのような鍛治を主に売り出していた技術で生計を立てていた島では、食料を外に頼る事で、自島の強みを最大限に発揮させていた。
つまり、それら以外の多くの交易協力島は基本、食料を多く作り、外に売る。それによって農具、工具、工芸品、嗜好品、などを手に入れていた。
現在、それらがストップした事でそのような食料を分担していた島では、自島では作る事の出来ない成功な製品を壊さぬように使うほかない。恐らく、数箇所では、食料があるのに農具が壊れて食糧不足なんで場合もあるかもしれない。
また、同じような食料だけ貯まっていくので、島内のストレスは限界に近いかもしれない。食事の楽しみが無いだけでなく、これが続いていく虚無感が凄いのだろう。
栄養過多や、栄養不足、畑の連作障害だって考えられる。手を打つなら早い方がいい。
それを踏まえて、ティケティスはリオン、もといこのバルインを軸とした交易を復活させる事を計画した。
まず初めに、バルインが鉱石を買っていたアクバィラウに、海藻とトンドの肉を中心に多くの食料品を持っていく。その返しで大量の鉱石を持って帰り、ドワーフ総稼動で農具、工具、武具を作り出す。
今度はそれらを持って、アザリ交易圏を周り、食料、又は様々な交易品と交換して、それを循環させていく。最初はバルインありきだが、バルインの道具というのはなくてはならない物だ。非協力的なものも出づらいだろう。
ゆっくりと動き出せば、あとは加速させるだけ。リオンはアイテムボックスと魔法を使い、素早く交易を手助けする役割を、ティケティス達はその船の多さと全員の多さで広い域で手助けを。
広く手が届き、届かない所に素早く入り込むリオン。完璧な布陣ともいえる。順調に回り出せば、リオンは海の生物を狩る専門として交易をすれば良い。外に肉を借りにいく必要が減るからだ。
ティケティスの案は、概ね賛成され、現在はその第一歩としてアクバィラウへ向かっている。ティケティス達とゴド達ドワーフは、近隣の無人島は木を刈りに向かった。
パドンカは単純に力と労働力として、タマリはノームの特性である活性という力が、地面に力を与え、活力を漲らせる。鉱石の判別も当たり前のようにこなす。
地面のエキスパートとして、この場について来た。
リオンにとってこの2人の協力は願ってもない状況で、誰かと知らない場所に進むという期待感に胸を膨らませていた。
「それにしても、リオンの魔法はすごいわね。こんな力あったらこの海で1番になれるわよ。」
「そんな事はないよ。君達ティケティス海賊と本気で戦ったら、私は無事では終わらない。」
「だから、それがすごいって言ってるんでしょ。自慢じゃないけど、私たちってアルトの中でも結構強いんだから。」
「リオンすげぇな。こんな早く海進めるなら、オラ達の仲間になってくれよ。オラ、海は好きだけど魚は嫌いなんだ。」
「あんたはそう言って、いつも干し肉多く食べてるじゃない!」
「オラはタマリと違ってでっかいから、肉もいっぱい食べなきゃいけないんだ。」
「他のみんなより元々食事が多いのに、つまみ食いするから言ってんでしょ!」
「今度タマリもつまみ食い一緒にしようよ。そうしたら気持ちがわかるだ。」
「やるわけないでしょ!」
ただでさえ船体がいつもより深くいるうえに、タマリが怒鳴るたび船が揺れて、海水が飛んで来る。
リオンはタマリを宥めながら、アクバィラウへの海路を進んでいく。
途中、アイテムボックスから出したトンドの肉でたたきを作って食べたり、魔法を休ませているリオンに変わり、パドンカが手漕ぎをして危うく転覆しかけたり、タマリに魔法を教えたりして海上での数日の過ごした。
「タマリ、あれがアクバィラウか?」
「多分そうね。方角と島の特徴からアクバィラウだと考えられるわ。」
「やっと陸だ。今回は肉がいっぱい食えたから、まだ海でも良いけど陸の方が安心するんだ。あっという間だっただ。」
「ほんと、驚きだわ。そこまで大きくないこの帆船で行くって時はどうかしてると思ったけど、ニ晩で着いちゃうなんて。やっぱりリオンはうちに入るべきだと思うわ。」
「そうだ。そうだ。リオンはつえぇし、優しいし、飯いっぱいくれるから、仲間になってほしいだ。副船長になっても驚かないだ。」
「そんな事言ってるとまたラパパに怒られるわよ。まぁでも確かに、こんなに凄いやつは副船長か、船長じゃなきゃ周りに示しがつかないだろうしね。ラパパには悪いけど、二人でやってもらうしかないか。」
何故か勝手にティケティス海賊団に入る前提で話が進んでいるが、リオンはあえてスルーを決める。
「元々の作戦通り、まずはパドンカが泳いで話して来てくれ。書状、ちゃんと持ってるか?」
「もちろんだ。無くさないようにって瓶に入ったやつを3つ貰ったから、大丈夫だ。」
「道中で一つ無くしてるけどね。」
「それと、」
リオンはアイテムボックスからトンドの肉を取り出して、海に降ろす。
「これも引っ張っていくって話だからな。勝手に食べるんじゃないぞ。」
「さっきいっぱい食わせて貰ったから今は大丈夫だ。」
リオンとタマリは不安だが、泳ぎが得意で二度ほど商会の護衛として訪れた事のあるパドンカ以外に適役はいなかった。
「じゃあ、行ってくるだ。」とゴド達からの書状が入った瓶とトンドの肉を持ちながら、遠くに見えるアクバィラウの岸辺に向かって泳いで行った。
少し時間が経ち、二人の心配が倍々に増え始めた頃、そんな心配をよそにパドンカを乗せた一隻の船が向かってきた。
どうやらうまくいったようだ。アクバィラウの副首長をやっているというジ・ラウという男が船をつける場所まで案内してくれた。その間、アクバィラウの状況や、近隣の島の話をリオンは聞き込んだ。
船と波止場の柱を丈夫な紐で括る。沖で停留しないから錨は下ろさなかった。
活気を感じるほど、栄えてはいないがアクバィラウは心配していたほど困窮はしていない様子だった。
こうして、バルイン復興、アザリ交易圏の再始動のためリオン達は岩肌に覆われた、鉱石の島アクバィラウの地に降り立った。
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