アクバィラウでの諍い

第25話

「これが言ってた海藻か。」

 昨晩の宴から陽が登り、翌日。まだ宴を楽しんでやると、味の薄くなった宴の残り香をしがむドワーフ達を横目に、久しぶりの活気に目を輝かせた表情を見せる島の代表達。

 

 ガド、マリ、ゴド、は大量に積まれた海藻、ワケを目の前にして、活用法を考案し始める。

 

 ガドとマリはバルインにおける食事や生活などを指南し、管理する役職についているという。その役職の通り、海藻を出した瞬間から二人は触ったり、かじったり、色々な方法を使って使い方を模索し始めた。


 ゴドとリオンは、二人の会話に少しだけ混ざった後、二人に食糧庫の方に向かうと伝え、バルインの状況を見回る事にした。おそらくあの場にゴドとリオンがいても何の役にも立てないだろう。

 

 最初にトラタで使われていた料理をいくつか紹介しただけで、あの二人は別の調理法や、日持ちのさせ方。栄養や、腹持ちの部分まで話し合い始めていたから、見回りが終わって食糧庫の備蓄を確認して帰ってくれば、話はまとまっている筈だ。


「あれが工房じゃな。今は鉱石が殆どないから壊れたものを直すくらいしかしとらんが。」

「薪も何もないな。」

「炉は使わんからの。端の方で火を焚いて、それでやっておる。」

「あれは?」

「あれは、酒造所じゃな。」

「酒造所も寂しい様子だ。」

「あっちも同じじゃよ。匂いが強く残った酒樽に薄めた酒を入れて、ちびちび飲むだけ。」

「元々酒の材料はアザリから?」

「前も言ったと思うが、アザリはここらの島のまとめ役というか、交易の中心を担ってたんじゃ。単に人が多くて島が広いってだけじゃない。おいら達の島に何が足りてて、何が足りてないか、それを管理していたり、クラマ商会と一緒に食い物に困る島に買い付けに行ってた。」

 

「買い付け?」

 

「バルインで言えば鉄とか銅製品、おいら達が鉱石をよく交換してるアクバィラウは、岩肌に覆われているから植物を育てられない代わりに鉱石とか、山羊が沢山とれる。そういう各島々の余っているけど自分たちではどうにも出来ないものをルルとか、教会金貨で買い付けるんじゃ。その後、買い付けたものが欲しそうな島に行って、直接取引するか、間にアザリが入るか決める。そうやって、この辺りは発展してきたんじゃ。」


 ゴドの話を聞く限り、アザリは相当優秀な統率者が何代にも渡って統治している。

 

「なぜ、アザリは食料不足になったんだ?」

「きっかけはカムナバの日だな。」

「カムナバの日?」

「人間が生まれて死ぬまでの期間。おいらたちドワーフで言えば五回くらい、体験する出来事。月が完全に見えなくなり、凪が来るんじゃな。海の呼吸が止んで、そのせいで小型から中型の魚が全部でっかい奴らに喰われちまうんじゃ。それで、ある晩突然月が現れる。赤い方も白い方もまん丸で。そうなると海が激しく息を吹き返す。凪がやむんじゃなくて、時化がくる。波が荒れて船を出す事は死にに行くのと同じじゃな。」

 

「そのカムナバの日ってのが最近あったのか。」

「それがちょうど寒くなる前に起こったんじゃ。今から月が6回満ちる前くらいじゃったな。」


 「それなら、食料がキツくなるのも仕方ない。その影響がここバルインにもって事か。」

 

「そうじゃな。おいら達が交易ばかりしとったのも良くなかった。鉱石もそうじゃが、農作物を外に頼ってばかりいたからの。他の島の過不足が出ないとか、買いに行けんという状態になったらそりゃどうしようも出来ん。他の島でも、農作物の種とか苗を買ってたところは、次の収穫もだめじゃ。」

 

「さっき言ってた自分たちでは直接取引すれば良いんじゃないのか?」

 

「クラウティスは造船技術が凄くての、クラウティスがデカい島なのはそれが理由なんじゃが、戦争の当初、少ないながらもアザリを援助していたのがバレての、交易や自分たちの島以外に訪れた場合、アザリへの協力とみなして攻撃するって言ってきたんじゃ。おいら達はまだ何隻か船があるから良いが、一隻しかないみたいな島も沢山ある。それが無くなったら、終わりなんじゃ。」

 

「八方塞がりって事か。」

 

 その後、リオンはゴドに島を案内され、食糧庫を見せてもらい、ガド達の元に戻るまでの間、何か考えた様子で、突然黙ったり意識がどこか別にあるような感じだった。


「ガド、マリ、どうじゃ?」

「これ、凄いですよ。リオンさん。」

「こりゃなんじゃリオン。」

「え?」

 

 またしてもぼーっと考え込んでいたリオンにガドとマリは詰め寄る。

 

「この海藻。魔力が込められて育ってます。」

「魔力が込められて育てられてるって、何が凄いんじゃ?」

 二人の驚きようにゴドも不思議がって聞く。

 

「再生力があるんです。」

「そりゃ、海藻ならたまにあるじゃろ。」

「違うんです。根を残して、切ったあと、海藻に浸けて、微弱な魔力を込めると再生するんです。成長と言ってもいいかもしれませんが。」

「なんじゃそれ。無限って事なのか?」

「そこまではなんとも。ただ、一本を何度か試して切って、浸けてを繰り返していますが、5回目でも再生力は変わっていません。」

「そんな夢みたいなものがあるのか。」

 

 三人の視線がリオンに集まる。


「なんじゃ、リオン。知らんかったのか。」

「味が濃くて食感が良い海藻としか、」

 リオンの気の抜けた返事に三人は言葉を失う。


「この海藻があればバルインだけじゃない、周辺の島々、アザリ、が助かるかもしれんものなんじゃぞ!」

「そうじゃ!この海藻はおいら達を救う奇跡になるんじゃ。」

 マリも力強く頷く。

 

「トラタのみんなはこれを、」

 

 根っこの残してリオンに渡したという事は、そういうことなんだろう。彼らがリオンに対して渡したものの大きさをここで理解した。


「それで、調理法は。」

「それがの、リオンが言っとった、刻んで細くするのは活用しがいはあるんじゃが、後のやつはその島で作られた調味料と、特別な調理法ありきっぽくての。バルイン流を作らなければいかんかの。」

「問題はそこか。」

「そこに関してはわしとマリが探ってこうと思っとる。」

「探るっていっても塩とアムナミ、ラパくらいしか味付けないけどね。」

「酒は使わないのか?」

「飯に酒を使うわけないじゃろ。何を言ってるんじゃ。」

 リオンの問いかけがまるでわからないといった表情で返す。


「いや、アムナミはもうあまりない。ダカへ買いに行かなきゃ試しに使う量は無いぞ。」

 

 再び頭を抱える。リオンを除いた全員が。

 

「ゴド、クラウティスが攻撃するって言ったのは島の住民が、別の島に向かって行った時であってるか。」

「そうじゃな。」

「って事は私が島と島を行き来しても問題はない。そういう解釈でいいんだな。」

「まぁ、そうなるが、」

「ゴド、私はバルインを出るぞ。交易を立て直す。」

「リオン、それは、」

 

「いつ戦争が終わるかなんてわからないんだ。色々言っててもこの先無事である保証はない。それはバルインだけじゃなくて他の島にも言えることだ。」

「けど、」

「大丈夫だ。私に任せろ。」


 リオンの目に宿る強い意志を感じたのか、ゴドは黙って頷くと、

「リオンついて来るんじゃ。」

 と倉庫まで案内された。

 



  

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