第20話
タマリは、ここまで無遠慮で無神経で、一方的な攻撃というのを初めて体験した。これまで最強だと思っていた親分、ティケティスと、そのティケティスが見て直ぐ恐れを成したエルフの青年が力を合わせただけで、屈強な海の戦士として知られるクラウティスの精鋭を一網打尽にしてしまった。
それも全員生捕りで。ただ、不思議なのはエルフの彼が魔法では無く、弓術と、剣術を軸に戦っていた部分。魔法が苦手なエルフといっても、土魔法のみを得意とするノームのタマリからすると、エルフというだけで腕前は保証されている。
細かい補助魔法は見えても、直接的なものは一度も唱えなかった。エルフの彼の底の見えなさにタマリは戦慄する。
「な、なぁ、ティケティス、これはどういう事なんだ。」
さっきまで気を失っていたハウマンが目を覚ます。リオンをチラッと見た後、その横に転がっているクラウティスの戦士達を見て、驚いてる様な怯えてる様な顔つきを無理やり口角あげている。
「どういう事も何も、追っ手だよ。プア、何人に逃げられたかわかるか?」
塔から逃げる時ハウマンを背負ってくれた金毛猫の獣人が、音も無く飛んで来る。
「多分3人だな。追っ手は合計9人だった。ラウスとパドンカで裏側を見張っておけばよかった。お頭、すまない。」
「はっ、気にすんなプア。むしろ何人か逃してやった方が俺たちの出方を必要以上に探るだろうからな。パドに言って、この拠点から出る準備を急いで進めてくれ。」
「承知した。」
そう言うと金毛の彼は姿を消す。彼がいた場所には砂利が飛び散るだけだった。
ハウマンはティケティスと金毛の彼のやり取りを見て、状況を把握する。
「申し訳ない、自分が不甲斐ないばかりに、」
「なぁ、ハウマン。今反省したって一ルルにだってなりゃしない。今はとにかく立つんだ。話はそれから。」
「そうだな、すまない。」
「謝るのもこれで終わりだ。俺たちには心強い味方がいるんから気にすんな。」
「味方?さっきの獣人の彼の話か?」
「ハウマンもさっき一瞬見惚れてただろ。そこのエルフの兄ちゃんだよ。」
岸壁に佇むエルフの姿。目を覚まして直ぐに、天使のような彼の美貌は、神の迎えが来たのかと思った。
「ティケティス、それでさっき言った話ちゃんと守ってくれるんだよな。」
エルフの彼が、こちらに向かって歩いて来る。
「そりゃ任せろリオン。俺たちは卑怯だが、嘘つきじゃない。信用がなきゃ、1人で死ぬだけだからな。」
「だそうだ、ゴド、大丈夫そうか?」
「まぁ、最初は驚くし警戒するじゃろうが、そんな事言ってる場合でもないわ。今はとにかくおいら達の島が優先じゃ。」
「ティケティスは、私たちの船に。ゴド達、つまりドワーフの住むバルインに受け入れる代わりに、君たちは労働力と資源を頼む。日が暮れるまでそう時間もない。急いでくれ。」
「わかった。って事だハウマン。しばらくはあいつらの世話になるぞ。」
「ドワーフの島というと、」
「まぁハウマンからしたら、敵地だけど、俺たちもそんな変わらねぇよ。それに、お前の事についてはうちの参謀兼経理だって話してある。誰もクラウティスの首長だなんて思ってないさ。」
「っ、ぐ、そうだな。参謀として自分も荷積みをやってくるとしよう。」
ハウマンは、色々と思うところがあったが、それを言っても仕方ない。とりあえず今すべきことは生き延びる事。そうしなければ悩みの種である未来も考えられないわけだから。
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ティケティスは、リオンの力を過小評価していたと、限界まで認めていた評価を更に引き上げた。
彼は化け物だ。一緒に戦ったから分かる。エルフは金物を嫌い、弓を手足の様に操るというどこかで読んだエルフの話。よくある過大に描かれた冒険譚としか思っていなかったが、リオンを見て気が付いた。
あれは紛うことなき事実だ。
詳しい生態は置いといて、かつて存在した幻の大国ランドックが10年かけて叡智の森を舞台に繰り広げた侵略戦争。数万以上の戦士と、魔道具、多種多様な種族をもってしても、10年で得られた土地は森に入った一歩分のみ。
森を守った戦士はたった100人のエルフ達。ランドックに由来を持った幾つかの国ではエルフを鬼や悪魔として捉えたり、その逆に、エルフを信仰対象とする地域もあるという。
リオンは、ティケティスと争いにならなくて良かったと、強く安心する。彼1人を抑えられたとしても、プアと呼ばれた獣人や、パドンカなど、無事では済まない、相手ばかりいる。
パドンカに協力してもらい、対面してすぐに交渉出来たのは本当に良かった。
そして、ティケティスが話の通じる相手でよかった。
リオンはこれ以上争いに身を置くつもりなど一切ない。少し損しようが、話し合いができるならそれに越した事は無い。
ゴドも損はしたく無いが、概ね同じ考えようで、2人の意思はすぐに統一された。
早くトンドを肴に酒を飲もうと。そのためならリオンは少し苦労くらい目を瞑ってやる。
知ってる血の匂いなど、もう求めていない。
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