第21話
自分の身体の数倍以上の荷物を往復して運ぶパドンカが、「もう行けるだ!」と、最後の荷物である事を告げて、ティケティス海賊の船に乗り込む。。トラタで見た船より遥かに大きい。
パドンカの話ではこれと同じくらい船をもう一隻、そして、リオン達を捕えて運んだ時にも使った小型の船が三艘あるらしい。
さらに、大きな二隻にはお互いで連絡を取り合える魔道具がついているそうで、この拠点を放棄してドワーフの島、バルインへ向かうことを副船長のラパパには報告済みのようだ。
彼らの海賊団の資金力の豊かさが伺える。
ティケティスはリオンの船に乗り込む。そういう約束だ。人質では無いが、人数や戦力的にドワーフ達は抵抗できない。そもそも、リオンとゴドを襲った過去もある。非常事態に対処するためにはティケティスを手の届く範囲に置いておくのが最もやりやすい。
リオンは、少しだけだがティケティスと接して、裏切るようには思えなかったし、むしろ信頼たる人間のようにも感じているが、その第六感的感覚で信じるのは少々早計だろ。
日が暮れる前に出発できた。パドンカ達の働きのおかげだろう。さっきの戦いで魔法をセーブした分、今はある程度回復してきている。大型とはいえ、ティケティス達の船の帆にも風を当てて速度を出すくらいならわけない。
この辺りの海域では海が深いこともあり、大型の肉食魚類が出ると言う。1人なら調査という名目で滞在したが、今回はそうもいかない。夜行性の個体も多いため、なるべく早くこの海域を抜ける事を目指し、お互いの帆に風を吹かせる。
明らかな速度の上昇につき、パドンカやティケティスが驚きの声を上げたが、リオンは素知らぬ顔を通した。おそらく気付かれているだろうが、恩着せがましくわざわざ言うのも少し恥ずかしい。
リオンの船ではゴドとティケティスが主に漕ぎ、リオンも何度か手伝おうとしたが、リオンが加わってもあまり意味はないし、むしろ場所を取るから漕がなくていいとゴドに言われたため、悲しい顔を見せながら先頭に座った。
船首の方から見える海はキラキラとした陽の反射だけでなく、光を丸ごと飲み込むような深淵も顔を覗かせている。時々姿を見せる深淵の生き物達は、さっき話に出た大型魚類なのだろう。少し落ち着いたらまたここに来ようと誓う。
そんな事を考えているうちに、あっという間に危険な海域を抜けて、バルインまであと数刻もしない距離に来ていた。
ちょうど陽の光が海に散らばり始め、煌々と赤さを主張し始めた頃だったので、夜になる前に来れて良かったと一同安堵する。
いきなり大型船が島に着くのは、必要以上の警戒がされるため、島がギリギリ見える沖に一度停留させ、リオン、ゴド、ティケティスの3人で説明に向かう事になっている。
可能性として、今晩は上陸出来ないかもとは伝えてあるので、交渉には時間を使える。
そもそもリオンでさえもドワーフの島、バルインへ足を下ろすのは初めてのため、少し緊張する。先にガド達が着いているはずだから、まずはじめは心配を解く事を目的にしよう。
「あれじゃ、あの島じゃ。」
幾つかの島が見え始め、集団が住むには小さいものから、トンドの岩礁のように岩肌のみの島など、陸の生物の息吹が聞こえ出す。
その中で一際大きな島。三つ連なった山が根を下ろすその島こそ、ゴド達の故郷の島だった。
「あそこがバルイン、、」
リオンはこれから始まる未知の体験に胸を躍らせる。何が始まるのかと、期待がパンパンに膨れ上がっていく。
「この辺なのは知っていたが、あそこにドワーフは住んでたんか。」
「お主達はクラマ商会の護衛もやっとるんじゃったか。」
「お得意様とまでは言えねぇが、アザリ、クラウティスのあるこの海域では俺たちが1番知ってるからな。護衛と言うより、道案内と、金を払うから襲うなよという協定みたいなもんだな。」
「確かにこの辺りではティケティス達に敵うやつらいなそうだもんな。」
「あのエルフ様のお墨付きとなればティケティス海賊団も、更なる成長に期待できるな。」
「エルフ様って、」
「ガハハハハ、リオンもそんなふうに困った顔をするんじゃな。」
「まったく、」
「リオン、ゴド、俺ははじめに言った通り、ここでの待遇には多くを望まない。あいつらが安心して寝る場所さえ提供してくれれば、死ぬ気で働く。」
「そんなに改まって言わんでもわかっとる。大丈夫じゃ。」
「パドンカの言う通り、海賊らしくない変なやつだな、ティケティスは。」
ここからでも島には人影がいくつか見える。日もだいぶ落ちて、もう少しで暗闇が空を包み込む。人影達は、船が並ぶ海岸で、何か話し合っている様子だった。
「あれ、ガドじゃ。ギドもおるわ。」
「この距離で、よくわかるな、」
「そりゃ50年一緒にいるからの。自分の分身みたいなもんじゃよ。」
ゴドは漕ぐのをリオンに任せて、船首に立つと空気を全身で吸い込んで、地鳴りのような声を上げた。事前に聞いていなければ、しばらく耳の調子を悪くさせただろう。
海岸にいた人影、ガド達は、声の主であるこちらに意識を持っていかれると、すぐに気づいて跳ねながら手を上げる。
少しして、ギドも同じように地鳴りのような返事をすると、
「リオン、岸まで一気に頼めるか?」
「この距離なら余裕だ。船にちゃんと掴まっておけよ。」
「リオン、何を、」
ティケティスが何か言いかけたその瞬間に、船は一直線、岸まで飛んでいく。文字通り船が飛行した。激しい水飛沫と、風を切る音を立てながら、点々を結ぶように移動したリオンの船は緑っぽい発光が起こっていて、岸にぶつかる衝撃を全て飲み込んだ。
「話に聞いていたが、ここまで凄いとは思わんかった。」
「おい、おい、なんだよこれは。体がちぎれるかと思ったぞ。」
「すまない、久しぶりで調整が上手くいかなかった。」
リオンは申し訳なさそうに笑って、2人の乱れた髪の毛を見て、今度は可笑しくて笑った。
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