第18話
「それじゃあ、荷物持って来れば、その果実酒をオラにくれんだな!」
「そうだ。手土産用に買ったもので、機会があれば渡したいって思ってたんだ。」
「ちょっと待ってろ。早く持ってくるだ。」
「気をつけてなー。」
「こんな優しいエルフとドワーフは初めてだよ。」
男、名前をパドンカという大柄の彼が岩窟の一室から出ていった。リオンとゴドは、まさかこんなに上手くいくとは思わず、喜びより先に困惑の感情が押し寄せている。
ティケティスを船長とした海賊団ティケティスは、30人で構成されていて、クラウティスに依頼料をもらい、アザリを援助するドワーフやその仲間達を中心に捕縛する事を頼まれたそうだ。
生捕り厳守らしく、捕まった者はしばらくこの岩窟に閉じ込められたあと、戦争が終わるまで労働捕虜として、クラウティスで働かせられる事になっているらしい。
戦争の原因にも色々関係しているそうだが、パドンカは難しくてその一切を覚えていなかった。捕まったのはリオンとゴドを入れて10人以上いるらしいが、そのほとんどが殺される事を恐れ、強く抵抗するか完全な服従の選択を選んでいたという。
そのため、友好的に話しかけるリオンとゴドにパドンカは小さな友情すら感じている様子だった。
今現在、船長のティケティスは今日までこの岩窟にいた数人の身柄引渡しと、報告、依頼料受け取りのため、クラウティスに部下何人かを連れていっており、副船長のラパパは全員ほとんどを連れて、アザリの仲間達が多く通ると言われているあの無人島群周辺を張っているらしい。
この岩窟にはパドンカ含めた数人しかおらず、その数人も寝ずの番や、数時間前まで捕縛の仕事をしていたため、行動できる要員はパドンカだけらしい。
彼だけをここに置いている時点でティケティスとやらもマヌケかもしれないと、リオンは期待したが、パドンカの話を聞くに相当賢い者のようだ。
退屈しのぎのためにパドンカは捕虜にちょっかいを出す事が多々あるそうで、今回もそのためにこの一室を訪ねてきた。リオンとゴドはパドンカに悟られないように質問攻めをし、まさかの知りたい情報を全て知る事ができた。
その一環で、リオンは無理を承知で、荷物を持ってきてくれないかとせがんでみた。
「なぁパドンカ、荷物に大事なものがあって、それだけ持ってきてくれたりしないか?」
「流石にリオンの頼みでも荷物を渡すとおらが怒られるだ。」
「まぁ、そうだよな。流石にな、」
「そういえばリオン、前話してた酒はちゃんとあるんじゃよな?」
ゴドの空気の読めない発言に、リオンは笑うしか無かったが、
「リオン、酒持ってるだか?!」
酒という言葉に強く反応したのはパドンカだった。
そこからはあっという間の交渉、交渉と呼ぶには一方的で簡単過ぎたが、立場を考えれば交渉というほかないだろう。
苦くて酒精の強い酒ばかりしかこの辺りでは得られず、ティケティス達はそれでも充分楽しめているのだが、パドンカはその飲みづらさが耐えられなかった。
酒は好きだが、不味いものしかない状況。そんな中で、リオンは蜂蜜酒や果実酒、他にもいくつか聞いた事ない酒を持っていると言う。さらに、仲良くなった記念としてひと瓶くれると言うではないか。
エルフの荷物は勝手に開くと死人が出ると、ティケティスから言われており、そのまま放置されていたが、リオンは自分が開ければ何の問題もないと言うから、それなら酒を貰おう。
そうやって、さっきちょうどパドンカはリオンの荷物、ついでにゴドの荷物も含めて持ってきてもらえる事になったのだった。
――――――――――――――――――――――――
ハウマンは、執務室で深いため息をついた。クラウティスとアザリの紛争。両者とも不本意な形で始まった戦いだった。
資源の取り合いと言ってしまえばそれ以上も以下でもないのだが、どちらの島もそれなりの島民を抱えている。海に線を引く事は出来なくても、日にちを交互に漁をすれば争いは生まれないとして、200年以上も前から決まっていた規則をアザリが破った。近年は日にちの縛りではなく、半月。
つまり赤い月が消えて、白い月が満月になった所で、アザリは両島間にある海には手を出せず、クラウティスは白い月が消えて、赤い月が満月になるまでを約束としていた。
規則を破ったアザリ側の主張としては、最近の寒冷気温により作物の育ちが悪く、共通する沖合ではなく、アザリ側の近海での漁のため規則には反していないという事だった。
ハウマンも当初は数ヶ月分の穀物を後払いしてもらうという方針で、アザリへの制裁を考えていたが、漁港ギルドの顔役であるクロウマンと北部農場主のケルアマンがそれに反対。
即日支払いの作物と苗、追加で一月分の漁獲した半分を渡すべきだと主張した。アザリが不作ならば、そこから大きく距離の離れていないここクラウティスでも当然不作が続いている。
島を治めるハウマンは、有力者で有権者である二人に反意を示したくないという気持ちより、彼らが清貧に喘ぐ島民を焚きつけ取り返しのつかない事態に陥りかけないと憂慮した。
その結果がこうなった。強硬姿勢を取る事が決まり、アザリへの違反による支払いを大きくふっかけた。アザリ側も最初は自分たちが悪かったがどうにか恩情をと、下手に出ていたが、クロウマンが中間海域を占拠した事で、交渉決裂。最悪の事態に陥ってしまった。
両島とも、陸地への侵入は行なっていないものの、敵船の破壊や、遠距離からの包囲を行っており、たださえ足りない食糧の備蓄があと数日で尽きようとしていた。
どうしたもんか、ハウマンは嘆く。ティケティス達への支払いを前に、この島の未来の行末が見えないこの状況で、どう舵を取るべきなのか。
リオンを捕え、その後パドンカが解放しかけているとも知らず、ティケティス達は捕虜を連れ、ハウマンのいる首長塔へ向かっていた。
この時、クラウティスの漁港では、怪しい動きが起こっていた。
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