バルインの地にて
第17話
ポタポタと水が滴り落ちる音のみが広がる。暗闇とまでは言えないが、微かな光が点在するだけでこの場所は静けさと暗さが支配している。
殴られた後頭部の痛みがまだ続いている。後頭部を労わる事も出来ないのは両手両足についた枷のせいだ。解こうと体を捻るがびくともしない。そうやって体を震わせ、動かしていると後ろに横たわるゴドに振動が伝わって、ゴドも目を覚ました。
「――、―――!―――、――!!」
目が覚めたゴドは、起きてすぐなかなか現実を飲み込めずにいたが、体の痛みで思い出し、振動の方向、つまりリオンがいる方に体を向けると、口につけられた紐の事など気にせず何か言い続けていた。
声を出しているという情報以外、リオンはわからないがなんとなく言いたい事はわかる。ここはどこで今自分たちは誰に監禁された手いるのか。ゴドより先に起きたリオンは、ゴドと全く同じ拘束状態だったが、そこまで慌てる事は無く、冷静に目を慣らして、観察することを意識した。
少し抜けている部分がある記憶も、所々想像で補う様な形で自分たちの置かれたこの状況を打破すべく考えを巡らせる。アイテムボックスや、リオンが携帯していた装備は手元にない。
持ち主が許可していない者があのカバンを開けた時に起こる仕掛けを待つか、それとも今、魔力を振り絞って拘束を解くか。
リオンが考えている間にまさかの事が起こる。
ふんっ!と力強い声がしたと思うと、力づくで拘束をちぎったゴドがリオンの拘束を解きにこちらに向かってきていた。口縄をちぎった後、口内に残る繊維をぺっと吐きながらリオンの後ろに回って、縄や拘束具を一思いにちぎって壊した。
恐るべきドワーフの怪力。頭で考えるより行動したほうが早かったのだ。リオンの口の拘束を解きながら、ゴドは耳元で
「おそらく無人島群を拠点にしてる海賊の仕業じゃな。エルフとドワーフの組み合わせだから、人買いにでも売るためだろうな。どうするんじゃ。リオン。」
「ろうふるって、」口縄そのままにリオンは答える。
作戦は任せたとゴドは役目を終えた様な表情をリオンに見せた。
どうするも何も今この場にその海賊たちが来た瞬間戦闘するしかなくなる。打開策を考えるにも時間はないし、逃げ隠れればいいという話でもない。
それに、命の次くらいに大切なものを自分の元へ戻したい。しかし敵の戦力について一切わからないでいる。可能であるなら不要な殺しもしたくはない。
やりたい事とやりたくない事。やらなきゃいけない事を順序立てて考えるが、何しろ情報がなさすぎる。今が朝なのか夜なのか、出来るとしたら暗闇に目を慣らすか、わずかな魔力を編むくらいしかの働きができなかった。
様々な考えがリオンの中で混ざり合い主張していく。ただ、リオンがそんな考え巡らす事に時間を使う暇などなかった。
「お前ら、起きたかぁ?」
乱雑に開けられたドアの隙間から入り込む光がワッと広くなる。暗闇に慣れた目がその明るさを拒絶して思うように目を開けられない。
入ってきた男は大柄でドアに頭を閊えさせている。全身に墨で紋様が刻まれており、傷跡も目立つ。男はリオン達を見て、自由に振る舞う様子で、何が起こったのか察知する。
「おおぉい、何で拘束が取れてるだ!なにしたんだお前ら、」
男は慌てた様子で、臨戦態勢に入る。岩肌が震え、部屋の中には殺気やら、敵意やらが、充満していくのを感じたリオンは仕方ないと魔法の展開をはじめ、ゴドはさっきまで自身が縛られていた縄を握りしめ武器に転じようとしている。二人も緊張感と集中力を高めて出方を注意深く観察する。しかし、
「あれ、もしかしてだけど、解けちまったんだか?」
ゴドの持つ縄を見た、男から殺意が引いていくのを感じる。男はリオン達の慌てた表情を見て、たまたま拘束が外れて混乱していると推察したのだ。
こいつはあほだ。リオンとゴドはお互い同じことを心の中で思う。
今しかない。リオンは咄嗟に口を開く。
「そうなんだ!少し寝返りを打ったら縄が解けて千切れてしまった。それを言いに行こうとしてたところなんだ。」
「そうじゃ、そうじゃ!ドワーフにこの縄は細過ぎじゃよ。」
こんな言い訳通るはずない、普通ならそう考えるが。
男は目を大きく開いて、部屋をぐるっと見回す。リオンとゴドは流石に無理があったかと、再度警戒を強めようとしたが、
「なんだー、そうならそうと早く言ってくれだ。逃げ出すのかと思っちまっただ。」
自分のミスを恥ずかしがる様な表情をリオンとゴドに向けた。
「まさか、そんなわけないだろ。海賊、の皆さんから逃げられるわけないんだから。」
リオンは続ける。
「おら達が海賊ってよくわかったな。そうだそうだ。エルフ、お前賢いなぁ。」
「しかも、ここは無人島だろ?逃げようたって、船がなきゃどうしようもないもんな。」
「そうだなぁ。けど、ここはお前ら捕まえた入江じゃなくて、クラウティス付近の無人島だ。泳ぎが得意なら逃げられちまうからこうやって捕まえてるんだ。賢いエルフもこれはわからないんだな。」
はっはっはと大男の彼は笑いながら新しい縄をとりに戻って行った。
「これはチャンスじゃな、リオン。」
「あぁ、図らずともクラウティスに行ける機会が来るとはな。あいつらの人数、脱出までの経路、私たちの荷物の場所、聞けることはどんどん聞いていこう。思ったより長居せずに済むかもしれない。」
二人は笑って、こそこそと作戦会議を始めた。
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