第15話
「「そりゃほんとか!」」
ゴドから説明を聞いた2人は目を輝かせて笑顔を見せる。
彼らの現状を聞いたところ、アザリを応援するためにほとんど無償で武具を作って渡し、その間の作業や現在の食料採取に時間を使っているため、薬や酒造りなどに一切時間をかけてこれなかったらしい。
つまり大好きな酒を我慢し続ける日々を送っているというのだ。それだけではなく、ほかの島との交易品も満足に用意できず、毎日似たような貝と海藻を食べるという飽き飽きしてしまう毎日に変わり果ててしまったという。
「とは言ったものの、私から与えられるものは僅かでしかない。昔アザリが君たちドワーフにしたように救いを授けられるかは期待し過ぎないで欲しい。」
「リオン、そりゃ傲慢ってやつじゃよ。」
「ガド、そんな言い方は無いだろ。リオン、わしらはわしらを思って力を貸してくれる。それだけで救われてるんじゃ。」
「ガッハッハッハ、ギドの言う通りじゃな。どれだけ食いもんがあっても助けてる気持ちがなきゃ、そりゃ無いのと同じじゃからな。リオンの気持ち、わしらドワーフは一生忘れん。」
リオンは照れくさそうに笑いながら、自分が救ってやるみたいな考えを持っていた事を後悔する。手を貸すとはそういった恵んだり、恵まれたりするような上下関係で成り立つものでは無い。
「とにかく、もう直ぐ陽が沈む。トンドを狩るなら一晩停留するが、リオン、どうする?」
「一晩ここにいて、ガド達は平気なのか?」
「んー、一晩くらいなら、大丈夫じゃろ。」
「グド達がちょうど漁から帰って来とるはずじゃ。もしかすると、ガダとゲドも交易に成功して帰ってきてるかもしれんしの。」
「おいら達からしてもトンド一匹でも持ち帰れたら相当喜ばれるはずじゃ。むしろ、一晩残ろう。」
あれよあれよと話が進み、リオンが口を挟む間もなくトンド狩りが決定した。
「おい、ゴド、そもそもリオンはトンドの狩り方知っとるのか?」
「そうじゃ、ゴド、普段はトンドを狩るのにわしらドワーフ5〜6人と、アザリや他の島から手伝いを頼むじゃろ?4人でやれるんか?」
「うっかりしとった。リオンが魔法を使えると言ってたからな。期待が膨らんで現実を見えておらんだわ。」
「トンドを狩るのにそこまで力がいるのか。」
先ほどまでの盛り上がりを失い、リオンとガド達は相談し合う。
「何事もやってみんとわからん!」
話し合いが平行線をたどり、刻々と時間が経っていく。陽が海に溶け始めたそれくらいの時だった。
色々と考えていた様子のゴドが、堰を切ったかのように決断する。
「そんなこと言ってもの、」
「トンドは温厚じゃが、自らを狩ろうとしたものと対峙すれば捕食者と被食者の関係ではおられんぞ。生き物対生き物のぶつかり合いじゃ。」
「私もトンド狩りをしたい気持ちはあるが、君たちと私の安全が第一だ。焦って決断を出さなくても、」
「焦ってはおらん!しかし、少し前からトンドの内蔵を切らして、それを求める交易が滞ってる。トンドの薬効はおいら達が1番知ってるじゃろ。」
「それはそうじゃが、」
ガドは険しい表情をする。
ギドはなにも答えず、チラッと沈み始める陽に目をやった。
「アザリを支援すると族長は決めた。そのためにもおいら達が生きておらんでは意味がない!トンドを一匹でも連れて帰ればアザリの攻勢も巻き返せるかもしれんじゃろ。」
「ゴド、」呟きながらガドは肩を震わせるゴドの肩を掴む。
「トンドの肉は美味いからの。リオンから貰った酒も合わされば言うことなしじゃろうな。」
豪快に笑うギドは、どこかわざとらしさがあった。
「と言うことじゃが、リオン、ええか?」
「もちろん。私は最初から狩れればと息巻いてましたから。皆のやる気に火がつくのは私としても願ってもない。」
リオンとガド達はそれぞれ、自分の船に一度戻り今日の獲物の処理や、トンドへの準備の時間を作ることにした。
船に戻る前、ゴドからトンドの特徴、その対策についていくつか注意するように言われた。
まず第一になぜ夜でなければトンドを狩れないのか。それは睡眠中のトンドの外骨格を傷つける手段がないからだった。睡眠と仮死を同列に処理する生き物がいるように、睡眠する事で消費カロリーを削り厳しい環境を生きるものがいるように、睡眠とは最も自身を危険に晒す状態であるがゆえに、その時間をなんとしても耐えようとする生存本能。
アルト海と言う危険な海域において、生物の睡眠は生存競争において重要な役割を果たす。その役割が絶対防御となっているのがトンドだった。
ドワーフ達だけでなく、この岩礁付近に住まう者たちは岩礁の恩恵を大いに受け続けている、言い換えるとトンドとの戦闘の歴史はリオンやガド達が想像しているよりもずっと長い。
歴戦の猛者、勇者、賢者、が長い年月をかけて出た結果が、眠るトンドには手を出してはならないという事だった。
その歴史に学び、現在は作り上げられたトンドへの対処を守り狩りをしている。
その対処、トンドの外骨格、甲羅の役割を果たす岩に擬態する箇所には極力力をかけてはならない。
海に潜ったトンドには手を出してはならない。
火の魔法は使ってはならない。
首の軟骨への刺突、臀部、尾への魔法攻撃をすべし。
この四つ。ゴドが言うに、トンド狩りは成功が三度に一度。失敗の二度は攻撃側に死傷者が出るのではなく、物資が欠乏し気力が奪われて諦めて起きるそうだ。ただ、稀にトンドの怒りを買いこの岩礁の栄養となる事もあると言う。
ゴドの説明を聞いたリオンは、このおそらく無謀な戦いを、少しだけやる価値のあるものにするため、魔力を編み、設置魔法と罠魔法を準備する。
単純な物理攻撃や、刃物による対応はドワーフに任せるのが最も合理的だからだ。
ここ最近帆に風を当てる事と、警戒するために魔法を使っていたため、魔力は存外残っていた。高度で上位な魔法を使わないというのは、平和であるがゆえにその技量と練度を衰えさせる原因にもなり得る。
アルト海がバカンスの地であるのなら、このまま平和にのみ侵食された便利な三本目の手を休ませ続けるのだが、そうはいかない。近々戦闘しておかなければと思っていたから、この狩りは好奇心や興味を満たす以外でも、リオンからするとやるべき価値のあるものだった。
日も完全に暮れて、夕方に聞こえていた鳥の声も止んだ。波の音と、夜を生きるもの達の羽音や声が耳を澄ますと聞こえてくる。
そんな中にギコギコと明らかに人工的な音が、重なり聞こえてくる。ガドたちの舟音だろう。彼らは手漕ぎが主導力のなんちゃって帆船に乗っていた。
力のある彼らからすると、そちらの方が都合がいいのだろう。待ち合わせの時間は細かく決めていなかったが、少し前にリオンも準備が終わり、波の音に意識を集中させていた頃だったのでちょうど良かった。
暗闇からスッと彼らの船が見え、彼らの姿もすぐに見てとれた。
やぁと、リオンは手を挙げてガド達が来やすいように風魔法で彼らの船を寄せる。
不自然な加速に驚きながらもガド達は、手を挙げてリオンとの再会に歓喜している様子だった。実際に後で聞くとこれは再会に喜んでいたのでは無く、トンド狩りへの興奮が4割、リオンからもらえる酒の喜びが6割だったそうだ。
再開と言うのは少し大袈裟だが、ガド達とリオンは目配せをして、リオンのトーチが光るその場所まで大きな音を立てないように進んだ。ピッタリと岩礁につけるわけでは無く、少し離れた場所にガド達は錨おろし、リオンはそれよりも離れた場所に錨をおろした。
ゴドが指で合図をする。準備に入れの指示だった。
この晩、赤い月が綺麗な三日月となったこの晩。リオンの期待は想像以上に膨れ上がっていた。この後リオン達を襲う大きな困難があるとも知らずに。
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