第14話

 ガド達三人から聞き出したトンド岩礁の植生、可食生物、注意しておくことをメモにまとめる。

 

「それじゃあ、一番危険なのは潮だまりにいるトッツキと、たまに出てくる大鷲なんだな。」

 

「そうじゃな。特にトッツキは飛び出てくるまで隠密スキルに近い特性を使っているから、視力の悪さを利用してまずは石やらなんやらを潮だまりに投げるのがいいだ。」

 

 ゴドは何か思い返しているような表情を見せ答える。


リオンが体験したトッツキとの出会いを聞いた彼らは驚きながら、無事なリオンの姿を称えた。

 

「おめぇさんが無事だったのは本当に奇跡じゃな。」

「そうじゃ、そうじゃ、」

「二度目はないじゃろ。無暗に顔は覗かせるものじゃないぞ。」


続けて近海について質問しようとしたリオンだったが、

 

「ギド、まずいぞ日が暮れる。」

「ゴド、急いでクチバシを取る準備じゃ。」

「ガド、お前は探しに行くんじゃ。」

 

雲の流れと、空の様子を見たガドの発言を皮切りに忙しなく動き始める。


「リオンすまんが、話はあとじゃ。」

「酒欲しさに時間を忘れてしもうた。」

「リオンも手伝いがてら見学してもいいぞ。」

 

ゴドが気を使ってくれたのか、リオンに声をかけた。

 

「それなら手伝わせてもらうよ。何でも言ってくれ。」


 動き出した4人は、まずリオンへクチバシを説明するところから始めた。

「さっき、教えた中に岩裏に群生する貝があると言ったじゃろ。」

 

 採取となるとゴドが指示をし始めた。他の2人は何やら道具を取り出し、岩礁を見てまわっている。

 

「あぁ、この島で1番採りやすく、安全に手に入る物だと。」

「そうだ。その通り。うちの島はしばらく食料が足りてなくてな、こうやって狩猟役が交友のある島や、食材採取をしておるんじゃ。」


ゴドは試しに鎌のような器具を岩裏に差し込んでグリグリと腕を揺らすと、網を持ったもう片方の腕も岩裏に入れる。

 

「これがクチバシじゃ。」

 

呼び名の通り鳥の嘴そっくりな見た目の巻貝が大量に入っていた。


2人は作業しながら、他愛もない会話を続けている。リオンはさっき聞いた交友のある島についてゴドに質問する。

 

「さっき言ってた交友のある島ってもしかして、クルトシュと言う名の島か?」

 

「いいや、クルトシュ?もしかしてクラウティスの事か?」

 

「クラウティスと言う名だったか。」

 

「リオンの行き先はクラウティスだったのか?」

 

「いや、最初お世話になった場所で聞いただけさ。近くに島があるなら教えてくれって。」

 

「知り合いがいるわけでなさそうじゃな。そうか、それならクラウティスはやめておけ。」

 

「、どうしてか聞いてもいいか?」

 

「あそこは今戦争してるんじゃ。うちの島も、その周りの島もそれが影響して食いもんに困ってる。」

 

「ゴド達とって事なのか?」

 

「いいや、この付近で交易をしている元締めの島があるんだ、名をアザリという島。おいら達ドワーフは農耕も、牧畜も、大それた狩猟も出来ん。出来ることを挙げるとしたら、製薬、酒造、鍛治、鍛造、造築くらいかの。ようは明日生きる術を持っておらんの民族なんじゃ。」

 

「それだけできれば充分凄いじゃないか、生活を豊かにする力は誰にも負けていない。」

 

「そりゃ、おいら達は自分の仕事に誇りを持っている。技術の腕なら大陸のドワーフだろうと負ける気はせん。けどな、豊かにするはずの生活も、飢えてしまえば元も子もない。その通り、先祖たちは毎日腹を空かせていた。そんな中、おいら達の先祖にアザリの者が声をかけてくれたんじゃ。大陸から移り住んで来たおいら達の先祖に、食事を振る舞ってくれた。それから、アザリは食料を、おいら達バルインからは鍬や鋤、薬に酒を送りあっていた。昔からの付き合いができたんじゃ。」


 ゴドたち先祖の苦労を考えるに、アザリとの出会いがどれだけ大きなものだったかは容易に想像できる。

 

「ゴド達の先祖も大陸からだったんだな。」

 

「そう伝わってるが、実際はわからん。そのアザリを中心として、恐らく4つの島が協力し合って今ではそれなりに豊かな暮らしを送れてたんじゃ。けど最近、クラウティスが戦争を仕掛けてきた。理由はおいら達にはようわからん。どっちが悪くて良いかなんて興味もない。けど、アザリは自分の島の民を食わすためと、おいら達の島まで交易で来れるほど船の数も人手も余裕もない。だから、こうやって、食いもん探しにおいら達は来てるんじゃ。」


 ゴドはどこか心配そうな表情を何度か作り、そのたびに無理やり忘れるような素振りを続けた。

 

「なぁ、ゴド。それなら私が力になれるかもしれない。」

「もう力になってるぞ。酒もくれるし、今も手伝ってくれてるじゃろ?」

 

「そういう事じゃ無いんだ。もっと根本的なもの。私はつい最近行商人を始めたんだ。島民の人数はわからないが、少しは役に立てるかもしれない。私のアイテムボックスは特別製だからな。」

 

 リオンはゴドに向けて含んだ笑顔を見せた。


「こりゃ、幸運の出会いだったかもな。地の神に感謝を。」

 ゴドは顔を俯かせ、目を瞑ると頭に指を当て深く息を吸った。

 

「海に暮らして地の神に、か。」

「おいら達はドワーフじゃからの。この先海に居続けようと信仰は変わらんぞ。」

 

 豪快に笑いながら、ゴドは日の沈む方向に目をやり、作業を再開し始めた。

 リオンもゴド達と同じように、クチバシを探すために彼らの歩いてない岩場に向けて歩き出す。


 途中大きめの潮だまりや、警戒した様子の蟹などがいたが、ひとまずはクチバシを見つけようと、好奇心をどうにか抑えて、幾つもの岩裏を覗く作業に就いた。

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