第13話
「ーい、おーーーい、おーーーーい!」
リオンは跳ね起きる。なんの音だ。何も気付かず死んでいたなんて、無様な結果になっていなくてホッとすると同時に、戦わなければと言う本能がカッと燃え上がる。
瞬時に風魔法を展開し、腰に携えていたナイフを目の前に突き立てる。まだ明かるさに目が慣れていないが、魔素感知を使えば少し間は耐えられるだろう。
「おぉ、っと、待ってくれ、俺たちは海賊じゃねぇぞ。」
「そうだ、そうだ、ただの狩猟民じゃ。」
「オメェいいナイフ拵えてんな。」
リオンの感知には3人の姿が映る。子どもくらいの体躯だが、全身筋肉で覆われている。豪快な笑い声と、口を開くたびに臭ってくる僅かな酒の香り。
「ドワーフか?」
リオンは突き立てたナイフを腰元に戻しながら、目の前に映る1人に話しかけた。
「おぉ、よくわかったな。エルフ。目を閉じたまま当てるなんてすげぇじゃねぇか。」
「そこまで酒臭い船乗りは、ドワーフか酒好きのマーマンくらいだからな。」
「ガッハッハッハ。そりゃそうじゃな。」
「それより、エルフなんでこんなところで寝てたんだよ。」
「そうじゃ、お主この辺の者じゃあるまいし、トンドを獲りに来たんか?」
ドワーフ達の問答が矢継ぎ早に届く。
「ちょっと待ってくれ、明るさに慣れない目を感知魔法で補おうとしたから、明るさに目が慣れるのに時間がかかっている。君たちと目を合わせて話をさせてくれ。」
「それもそうじゃな。」
「あんた感知魔法で見てたんか。」
「エルフは目の切り替えが出来んじゃったかの、」
少しして、目を慣らす間ドワーフからの問いかけが止む事は無かったが、会話は3人で完結するようだったので、問いかけは後回しに視覚を正常に戻した。
「これで大丈夫だ。」
感知でなんと無くわかってはいたが、実際に見るとドワーフの大きさは想像より小さい。チャミーと同じか、それより少し小さいくらいだ。その分、肩幅や四肢の太さはトラタ島にいた海の男達を遥かに凌駕するもので、不思議な感覚に陥る。
「おぉ、大丈夫になったか。エルフよ。」
「こんなところで寝るもんじゃないぞ、エルフ。」
「酒でも飲んだのか。おいらにも分けるんじゃ。」
誰と会話すれば良いのか、誰から答えれば良いのか、さっきまで答えるつもりがなく流していただけだから、ドワーフ達の問いかけの仕方に困惑する。
「話すときは、1人が代表して話してくれないか?私も3人いればスムーズに行くのだが、なにぶん1人でな。それと、私はエルフだが名前はエルフではなく、リオンディーラ。リオンと呼んでくれ。」
「それもそうじゃな。」
「確かにそうだ。」
「誰が代表する?」
リオンのお願いを素直に応じたドワーフ達は、代表者を決める話合いをし始めた。
「わしが!!」
「いいや、わしじゃ!」
「何をいうお前ら!」
あれからしばらく経ったが、話し合いは平行線のままただ時間のみが過ぎていく。
「もういい。私が会話をしたいとき、会話をしたい人部を指定して話をする。」
ドワーフの会話に押し入って、強制的に終わらせる。
「それじゃと、」
「なんじゃ!!」
「それでいいだろ。」
「こんな事続けてたら。日が暮れる。とりあえずそれぞれの名前だけ教えてくれ。そうじゃなきゃなんて呼びかけて良いのかわからない。」
「それもそうじゃな!わしはガド。」
「わしはギド。」
「おいはゴドじゃ。」
3人はさっきまでと同じように、次々と名前を語った。
「それじゃあガド、3人はここに何をしに来たんだ?」
「そりゃトンドを獲りにって言いたいところだけど、時間がねぇからケコガニとクチバシを目当てに来たんだ。」
「そのトンドってなんだ?」
「そりゃおめぇ、でっけぇ岩の塊みたいな亀だ。わしらは身を食い、甲羅を薬か防具に使っているが、魔法をやるやつらからすると触媒ってのに優秀なんだろ?クラマ商会の魔法使いが言ってた。」
「あれが、亀なのか。」
遠目から見ても圧倒される大きさを持ち、岩と同じような見た目の夜行性の生き物。暗闇ではっきりと見えなかったが確かに亀と言われればそんな気もしてくる。
トンドの利用価値より先にあの生き物が亀という事実をリオンは噛みしめる。
「おめぇはエルフだから魔法は使えんだろ?」
「あぁ、エルフだから使えるってのは少し違うけどな。というか、ドワーフも属性によっては堪能なものがいると聞くぞ。」
「そりゃ大陸か、鉱山にいるドワーフ達だな。俺たちはドワーフの中では海ドワーフって呼ばれる酒とか薬を作るドワーフじゃ。」
確かに、大陸で出会ったドワーフ達に比べ背が小さく感じる。最初の感知で見た瞬間にドワーフだと判断できなかったのは、見たことのあるドワーフのそれとは少し違っていたからだ。
「わしらの目的は言ったが、リオン、お主は何をしにここへ?」
ギドがたまらず聞いてくる。
「一言で言うなら冒険だ。アルトの海に浮かぶ全てを見て、知りたい。そのためにここにいる。」
「へぇ、そりゃエルフらしい目的だ。」
他2人も感心しているようにも、呆れているようにも見える表情を浮かべて、頷いていた。
「そうだ。この岩礁で知ってること、私に教えてくれないか?お礼に少しなら、」
そう言いながら、足元のボックスから酒瓶を一本チラつかせる。
「「「もちろん、まかせろ!」」」
今日、初めて3人の言葉に耳を澄ませなくて良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます