第7話
トラタではワケと呼ばれている海藻が山盛りに積まれていく。ティオラの指示で、3個の山が完成した。
「よーし。これくらいなら大丈夫だろう。みんなありがとな。」
ティオラは運び出しを手伝ってくれた男衆に感謝をし、目の前の海藻の状態を確認する。
「皆さんありがとうございました。」
リオンもティオラに続いて感謝を述べる。
「良いってことよ。」「色々助けられたお礼にこれくらいな、」と、リオンは男衆とあの日の話で盛り上がる。
「おーいリオン。ちょっと来れるか。」
海藻の確認をし終えたティオラがリオンを呼ぶ。
「今年は結構多めに取れたから、肥料にしようか海に撒こうか悩んでたんだ。ちょうど良い。」
ティオラの提案によって行商をする事に決めたリオンは、最初の取引としてトラタ島の海藻を商品として貰い受ける事になった。
島長にも許可を得て、宴に出した酒を含めたリオンの持つ幾つかの酒と少量の蜂蜜を大量の海藻と交換した。
元々は無料で渡すという話だったが、リオンが断り、海藻を商品にするなら価値のあるものと交換しなければ意味がないと話し合いを重ねた結果なかなか手に入らない酒と蜂蜜と交換する事になった。
そして、船出2日前の今日に海藻を水揚げして貰ったところだった。
「リオン大丈夫か?入りそうか?」
海藻の入っている木箱より小さいバックを見てティオラが心配そうにしている。
「前に一度水が出てくるのを見ただろ。大丈夫さ。」
バックのかぶせを開けると、底の見えない空間が広がっている。バックの口より何倍も大きい木箱を押し込むようにして入れる。吸われるようにして木箱は入っていき、ものの数分で海藻の受け取りは終わった。
「すげぇな、」
ティオラをはじめ、水揚げに来ていた全員が目の前の出来事に驚きを隠せていない。
「なぁリオンの旦那。アイテムバックってのは大陸でみんな持っているもんなのか?」
その中の1人が声を震わせ聞いてくる。
「アイテムバック自体そこまで珍しくは無いよ。けど、ほとんどが見た目の倍も入れば良い方って感じかな。ダンジョンの影響でアイテムバックは市場に沢山出ているけどここまでの物は数千万分の一くらいかな。」
リオンはアイテムバックを撫でる。
「じゃ、じゃあ、そのバックはもし売るとしたらどれくらいの価値なんだ、」
「こら、ドルア。リオンに失礼だろ。」
「す、すいません。つい、」
「多分値はつかないだろうね。ここまでのバックが市場に出た事が無いから。私の記憶では500キノグラル、500リットのバックが教会金貨八千万枚。当時の一級冒険者パーティーに買われた。それと比べると破格すぎるんだ。私のバックは。」
「金貨が、八千万枚、」
途方もない金額に生唾を飲み込む音が聞こえる。
「それに、高位のアイテムバックは持ち主を選ぶんだ。私のコイツは私と私の親友と1人にしか口を開けない。私が死んだとしてもね。」
リオンがバックを撫でる手は物に対してのそれというより、友人に向けるスキンシップのようにも思えた。
「まぁともかく、無事に海藻を引き渡せて良かった。俺らも何かしてぇってずっと話してたしな。」
何人かの男達は外の世界の話に何か思ったのか、来た時と様子が違って見えた。
――――――――――――――――――――――――
島にいる間ティオラの家に泊まらせてもらっているリオンは、チャミーに出立の話を言えずにいた。
「にーちゃん、湖いこーよ。風のやつ一緒にやろ。」
一週間ティオラ宅でお邪魔になっている間、リオンとチャミーは文字通りいつも一緒にいた。日の出ている時間は畑や家事の手伝いに積極的に参加し、持ち前の魔法を駆使して畑作業は引っ張りだことなっていた。
リオンが畑作業を手伝う横でチャミーも小さな手でリオンの手助けを沢山してくれた。魔法を使うたびにチャミーは目を輝かせ、真似するように空に向かって何か唱えるような素振りも見せていた。
「コロラたちも来るの?」
「今日は家の手伝いで遅れるって。」
「チャミー、今日は湖行く前にちょっと別のところ行ってもいいかな?」
「いいよー、」
二人は家を出るとリオンの先導で波止場へ向かった。
「海に何か用でもあるの?」
なかなか本題に入れずリオンがもじもじした様子でいると、その様子を見たチャミーは不思議がる。
「少し船の上で話さない?」
リオンはトラタの帆船を前にチャミーに提案する。
「勝手に船に乗ったら父ちゃんたちに怒られるぞ。」
「それなら私の船に、」
リオンは体の向きを翻し自分の船を指さす。
「多分、それなら、」
海と船について厳しく教えられてきたチャミーはティオラのいない状況で船に乗るという行動が考えられないのだろう。
「ティオラにはちゃんと許可貰ってるから大丈夫だよ。」
久しぶりの船上は違和感と同時に懐かしさを感じる。
「大丈夫だよ。チャミー。怖くない。」
チャミーは船が波に揺られるたび、乗り込むタイミングを逃している。リオンがチャミーの手を取り、引き込むようにして船に乗せる。
最初は船の揺れに怯えていたが、途中から心地よくなってきたのかさっきまで何かあれば陸に上がれる様な警戒した体勢から、体を船に丸々預ける様にして寝転んでいる。
「船の上は気持ちがいい。チャミーもそう思わない?」
「うん。風だけじゃなくて海が生き物みたいに呼吸してる。それが伝わってくる。」
波のリズムが呼吸のリズムと似ているのを、チャミーの言葉で気付いた。
「本当だ。海が息をしてる。」
2人は船の上で横になり、空を見つめていた。段々と言葉を交わすペースが落ちていき、お互いの呼吸の音とどこからが聞こえる鳥の音だけが生命を主張するようになった。
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