第6話
「こちらが御礼の品物と貨幣になります。」
丈夫そうな木箱の中には貝殻や真珠の装身具、鉱石のようなもの、魔石が入っていて、その横にはクギ草で編まれた小袋パンパンに教会貨幣が詰まっていた。
「帆船の値段と比べれば半分ほどの価値ですが、希少な魔石や貝殻も用意しました。今用意できる最大限の品物を集めました。」
昨晩まで親しげに話していた島長の影はなく、今は役を演じきっている。
「これらの品物で充分です。お心遣い感謝します。」
リオンが木箱と袋を受け取ると、そこで形式的なやり取りは終わった。
島長宅を後にしたリオンはティオラ宅に招かれ、息子のチャミーと妻のケーラと顔を合わせ、今後について話し合っていた。
「うちのバカ2人がお世話になって、本当にありがとうございます。」ケーラは、ティオラとチャミーの頭を掴み3人合わせて頭を下げる。
「気にしないでください。ティオラとチャミーは友人ですから。」
リオンは微笑ましいその光景を苦笑して受け取った。
「それでよリオン。これからどうすんだ?」
ケーラが食事の支度を始め、チャミーはその手伝いに向かった。1人になったティオラはリオンに問いかける。
「これから、ですか。」
成り行きでトラタ島に滞在する事になっていたリオンは、当初の目的である放浪する事を、ティオラに伝えた。
「放浪って、わざわざこの辺に来た理由それかよ。」
ティオラは笑っているような、呆れているような表情を見せた後、一つ提案を出した。
「それならよぉ、リオン。お前行商人やってみたらどうだ?」
「行商人?」
「そうだ。俺らの住むトラタみたいに年に数回決まった品物だけを取引する島ってのは結構多いと思うんだ。この近辺の島は実際そうなってる。そこでよ、さすらいの行商人が現れてみろ、どの島のやつらも喜ぶに違いない。」
「喜ぶって言ったって、」
「そこが大事なんだよ。この先どんな島に行くのか俺にはわからねぇ。けどよ、なんの肩書きもない放浪者が島に来て見ろ、良くて追放、最悪捕まって奴隷行きだ。」
「確かに。それはそうかもしれません。」
リオンはこれまで体験した大陸の思い出がいくつか蘇る。外の者へと弾圧や拒絶。エルフのリオンは人一倍経験している。
「リオンってしっかりしてるように見えて結構抜けてるところあるんだよな。」
ティオラはバシバシとリオンの背中を叩きながら笑っている。
「経験が浅いから、」
「エルフが何言ってんだよ。」
2人の掛け合いを聞いていたケーラとチャミーの笑い声も聞こえてきた。
「まぁ、ともかく。リオンはアイテムバックで大量の資材を運搬できる。これは他の商人にはない特別な力だ。そして、その力は島での取引にめっぽう強い。」
「そこまで言うほどか?」
「そりゃそうさ。大きい島なら獣やら魔獣がいるが、そうじゃなきゃ魚を狩らないと食い物がない。野菜や貝じゃとても腹は膨れない。干物にしたり、色々試してるところあると聞くが、新鮮な魚に勝てる食い物は島にはない。」
「それにな、リオン。お前が最初に何気なくくれた綺麗な水、そして昨日くれた酒。場所によっては金より有り難がたがられる物だ。外からの来訪者に警戒する島の奴らも自らの欲には勝てない。他の行商人とは違って荷物を抱えているわけじゃから力づくで奪う事も出来ないし、そもそも魔法の使えるリオンに敵うやつなんて中々出てこない。」
リオンはティオラの話に相槌を打ちながら、ティオラの言う行商人の価値がとてつもなく高い事を理解した。
「それだけじゃない。」
「話が盛り上がるのはいい事だけど、ご飯できたよ。」
ティオラが畳み掛けようと息を大きく吸ったところで、ケーラとチャミーが台所から出てきた。
「あぁ、そうだな。ケーラの飯は島一番だ。冷めたらもったいねぇ。話は後だリオン。」
「そうですね。先ほどからとても美味しそうな匂いがしていて話に集中出来なくなっていたところだ。」
「って、ちゃんと聞いてなかったのかよ。」
「あははは、リオンさんは正直で面白い人だねぇ。エルフはもっと堅苦しいのかと思ってたよ。」
ケーラは腹を抱えながら笑い、ティオラとチャミーもつられて笑っていた。
「人もエルフも食欲には勝てませんよ。」
リオンは、腹をさすりながら並んだ料理を見て目を輝かせた。
「あぁー食った食った。」
満足した様子のティオラは、同じく満足げなリオンに感想を聞く。
「どうだ、リオン。昨日のご馳走もいいがうちのケーラの飯も負けてなかっただろ?」
「感動しましたよ。肉も魚も使わずあんなに美味しいものが作れるなんて。故郷の偏食同族に見習わせたい。」
菜食主義のエルフたちの顔が浮かぶ。
「確か、エルフって野菜しか食べないって聞いたことあるね。」
「そー言えば、リオン大丈夫だったか昨日。ってもう遅いな、」
ケーラとティオラが昨日の宴を思い出して焦った様子を見せる。
「ずいぶん昔の話ですよ。エルフが血を拒んでいたのは。それに、その当時も肉好きのエルフはいました。」
「エルフの国も島なの?」
チャミーは好奇心をそのまま口に出す。
「エルフの国と言っても様々なんだ。森の中にあったり地下にあったり、それこそ島で暮らす者も多い。」
「うちの島みたいに肉がないわけじゃないんだ。」
リオンは頷き、チャミーの頭を撫でると
「また今度、エルフの国の話をしよう。ここにはない景色が沢山あるんだ。」懐かしい記憶が浮かぶ。
「やった!約束!」
「チャミー、良かったな。」
その後、チャミーの問答に付き合い、頭を使い疲れてしまったチャミーはケーラに連れられ昼寝入った。
「チャミーの相手ありがとな。」
ティオラの目の温もりはこれまでリオンが見てきたティオラのどれにも当てはまらない、父親としての空気だった。
「私が相手してもらったようなものです。こちらこそありがとう。ティオラさっきの話だけど、」
「あぁ、リオンとチャミーが話してる時に少し考え直してみたんだ。急な話だったしな。」
「それで、」
「俺の考えは変わらなかった。リオン、折角の旅だ。好きに、自由にやるのが1番正しい。けどな、このアルト海の恐ろしさをお前は知ってない。」
「リオン、俺はな、二十歳くらいの時この島が嫌で色んなところに行ったんだ。と言ってもアルト海の中だけだけどな。ただ、その時色々知ったんだ。俺がどれだけ考えの甘いガキで、世界がどれだけ広いのかって事を。」
「きっとリオンは俺の知らない事をたくさん知って体験してる。俺なんか比べものにならないくらい。だけど、お前はまだ子どもみたいに笑うじゃねぇか。」
「ティオラ、」
「リオン、お前は優しいからよ。またこの島に笑顔で帰ってきてほしいんだよ。」
恥ずかしそうに顔を伏せて、ティオラはリオンの肩に手を当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます