第4話
「帰ったぞーー!」
波止場では男衆の帰りを待つ島民達で溢れていた。
皆一様に今回の座礁の話を聞き心配で仕方なかったのだ。
ちょうど船の人影見えるくらいの距離になって、やっと島民達は安堵の声を漏らす。
「あの人たちは、」「まったく、心配かけて」「魚が食べられないなんていい迷惑だよ、」
船が見えるまで手を震わせて願っていた彼女達は、船が見えるや否や、ひらりと背を向け、文句を言いながら畑作業に戻っていく。強い背中だ。
小さい子ども達は父や兄の帰還をただ手放しに喜び、少し大きい子ども達は無事な様子を喜んでいた。
リオンは島民達の様子を眺めながら、船の帰還に安心した。
風の勢いが落ち、姿が見えてからなかなか島まで来ない船を焦ったく思い、リオンは風を唄う。リオンの全身をズズズと一度なぞってから船の元まで風が届く。
「おぉーなんだこれ、」と船員の声が聞こえてくる。
島で待つ子ども達も急に加速した船に驚いているようだった。
あっという間に波止場付近まで船が近づいてきて、人影だったものがはっきりと名を帯びていく。
「おとうさーん!」子ども達も自分のお目当てを見つけて精一杯に手を振っている。
リオンは広がる優しい空気を味わうように眺めていた。
――――――――――――――――――――――――
リオンの目の前には教会硬貨が入った袋と、いくつかの装身具が置かれている。
島長宅で、リオンへの礼品について話し合いが行われていた。
「こっちにも面目ってもんがある。あの帆船はこの島の全てと言っていい。」ティオラをはじめとした船乗り達と、女衆のまとめ役でもあり、旦那のケルトラが船員のアルマは、リオンへのお礼は過分に送るべきと主張する。
その一方で島長は、
「リオン殿のご助力には大変感謝はしている。しかし、彼も言っている通り、見返りを求めているわけじゃない。少しのお礼と、リオン殿の損害への負担だけで良いではないか。」
「ダメだ!」
「いいや、」
話し合いは膠着状態で、リオンが意見しようにもどうしたもんかと困っていた。
「エルフのにーちゃん!」
険しい表情が向き合う部屋の外から少年が顔を出す。
「こら、チャミー」
少年を叱咤する声が外から聞こえる
ティオラ達も、
「チャミー、今は大事な話し合いの最中なんだ。コロラ達と遊んでいなさい。」
チャミーと呼ばれた少年は今にも泣きそうになりながらも、
「父ちゃん達だけずるい!まほうをひとりじめするな!」
とリオンとティオラを交互に見ながら、声を上げる。
「チャミー、ひとりじめじゃない。父ちゃん達の島を助けてくれたリオンへ、出来る事、しなければならない事を考えているんだ。」
「それなら、父ちゃんのペンダントあげればいいじゃん」
「あれは、」
ティオラが少しだけ表情を翳らせる。
「父ちゃん達が帰ってきてずーっと話してばっかりで、つまんない、おれ、」
「チャミー!いい加減に!」
決まらぬ話し合いに業を煮やしていた事もあり、ティオラは怒気を孕んだ声を上げる。
「ティオラ、私はこの島を少し見てまわりたい。」
膨らんだ怒りが爆発しかける空気をとめるためにも、リオンが久しぶりに声を出す。
「リオン、」
「そもそも、私がここにいては話し合いも中々進まないだろう。お互い言い出せずにいる本音もある。せっかく友人の島に招いてもらったのだ、出来る事なら部屋に籠るのではなく島の風を受けていたい。」
「それもそうですな。」
島長が間に入り、島についての簡単な説明を行う。
海藻畑と島の中心の泉。島の外周をゆっくりと一周してくる頃には話し合いも終わっているでしょうと、リオンを送り出す。
「リオン、すまんかったな。」
ティオラが頭を下げると、リオンはティオラに向けて笑いかける。
「そう言えば、ティオラ。貴方何も食べていないんじゃない」
一連の話を聞いていたアルマが、何か思い出したかのように聞いてきた。
「そうだな。帰ってきてから何にもだ。」
「何かつまみながらにしましょうか。」
アルマはリオンがいる玄関に向けて立ち上がる。
「エルフのにーちゃん!」
勢いよくドアがガバッと開けられ、チャミーが顔を出す。
目を爛々と輝かせ、リオンの全身を隈なく目に焼き付けているようだ。
「リオンだよ。チャミー。」
リオンは膝をつきチャミーと同じ目線まで下がる。
「エルフのリオン。リオンって呼んで。」
「りおん、」
「そう。リオン。」
「りおんにーちゃん。遊ぼう!」
「うん。」
チャミーはリオンの手を握り、どこかの方向へ全力で駆け出す。リオンは突然の勢いに転びそうになりながらも、チャミーの向かう方向へ着いていく。
島長達は慌てるリオンと、目を輝かせたチャミーを見て、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
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