逃亡

 零の戦闘方法は剣を用いた近距離戦闘。

 そして、氷空の戦闘方法は杖を用いた魔法による遠距離戦闘だ。


『……クソッ』


 それに対する天使たちの戦闘方法は槍を使った近距離戦闘に、神より与えられた奇跡の力によって放出する光線を用いた遠距離戦闘も可能というオールラウンダーだ。

 だが、一体一体の天使の出力は零と氷空の二人以下である。

 そして、それは天使たちもよく理解していた。


『まずは魔法の方から狙うわっ』


『『了解っ!』』


 二体倒され、零と氷空に向かいあう三体の天使はまず、氷空の方へと一直線に向かって行く。


「わわっ!?」


 氷空の使う魔法は強力だが、基本的に近距離戦闘が強い方ではなく、強力な魔法の発動には少しばかりの時間が必要となる。

 氷空は自分の元にやってくる天使たちからただ逃げ惑うことしか出来なくなる。


『少女を打ち落としてやれっ!』


 天使たちは執拗に氷空を追いかけ回し、何とか叩き潰そうとする。


「ハァァァッ!」


 そんな中で、その横やりとして零が突っ込んでいく。


『そっちの男は一旦無視だッ!』


 単体で戦うのなら零の方が上。

 天使たちは零から逃亡し、氷空だけを狙おうとする。

 

「無視させるかよ」


 とはいえ、零はそれを許さず、氷空だけを狙おうとする天使を執拗に追いかけまわしていく。


『クソッ」

 

 それに対して、天使は零に向け、その動きを止めるために光線を放つ。


「無駄」


 自分に向けられた光線。

 それを真正面から食らってもなお、一切の傷を負うことない零が天使の前に立ち、剣を振るう。


『くっ……』


 それに対して、すぐさま天使の一体は零に背中を見せて全力で逃げ出す。


「許すわけないでしょ」


 だが、それを零は許さず、素の速さで天使に追いつき、背中から天使の心臓を貫く。


『がふっ』


 心臓を貫かれた天使はそのまま地面の方に落ちていく。


「きゃぁぁぁぁあああ!?むりぃっ!?」

 

 だが、そんなことをしている間に残りの天使は氷空を追い詰めており、一体の天使を追いかけていた零は少し、彼の方からも離れていた。

 これが狙い。

 零を離し、氷空を狙う。

 二体の天使が氷空を挟み込み、その手にある槍で今まさに彼を貫かんとしていた。


「ふんっ」


 だが、そんな状況を零は無理やりにでも解決する。


『がふっ!?』

 

 零は全力でその手にある剣を投げる。

 その剣が氷空を狙って振るっていた槍を持っていた腕を斬り落とし、そのまま天使の首まで貫いてみせる。


「トドメをさせる!ってタイミングが一番油断するんだよ」


「あ、危なかった……」

 

 一体の天使の動きが止まったことで何とか逃げ場を確保できた氷空が零の元にまで逃げてきた。


『……』


 これにより、結局氷空は殺せず、五体いた天使は残り一体となってしまった。

 そんな中で、残っていた天使は迷うことなく逃亡の態勢に入り、もう既にかなり二人から距離を取っていた。


「あっ」


 零からの手には武器がなく、氷空も魔法を発動する準備をしていない。


「……追いかける?」


「まぁ、良いよ。そのままで」


 そんな天使のことを、零は冷たい視線で眺めていた。

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