第8話 スキルは経験の積み重ね
引き続き自分のステータス画面に目を向ける。
スキル欄を見てみると、初めから順に【料理】、【裁縫】、【栽培】、【細工】、【画工】、【従魔術】、【鑑定】、【応急手当】、【格闘】など……おそらく今まで培ってきた経験がスキルとして反映されているのか、その後にもかなりの数が表示されている。
【料理】や【裁縫】などは趣味であるのでなんとなく理解できる。
途中、視界に入ってきた【従魔術】とは一体なんぞやと思ったりもしたが、詳細は置いておいて全体を流し見する。
中には忙しい朝の為に習得した【早着替え】や年頃の妹たちを喜ばせたくて学んだ【メイク術】なんてものもスキルになっていて面白い。
戦闘系のスキルより生産系が多いのは、やはり趣味嗜好が大きく影響しているのだろう。
それを考えると隣に居るこの後輩のスキルはとんでもなさそうだと思い聞いてみると、案の定恐ろしいものばかりだった。
「えっと……【マーシャルアーツ】、【銃術】、【弓術】、【短剣術】、【狩猟】、【解体】、【隠蔽】、【
「どこのディス〇バリーチャンネルの住人だよ。何だよそのスキル構成は! 」
「いやぁ、ちょっと家庭の事情で……えへへ」
そう言って邪気の欠片もなく笑う二十三歳OL。
その笑顔は座敷童みのある童顔も相まってもの凄く癒されるし可愛らしいが、スキルの物騒さがより際立って狂気に拍車をかけているような気さえする。
そういえば手刀でビール瓶を切れる奴である。バリバリの戦闘系女子なのはわかっていたことだが、これはさすがに尖りすぎだ。
事情とやらを聞いていいものか迷ったが、とりあえず今は深く聞くことはせずに他の欄へと目を滑らせていく。
揃いも揃って戦闘系スキルばかりだ。それもこんなものどうやって取得するのかと言わんばかりの【暗殺】なんてものまである。
その代わり生活に役立つようなものはなく、ここまでくるといっそ清々しいほどの戦闘特化型だった。
普段はひょうきんで可愛らしく懐も深い後輩を万が一、いや億が一にでも怒らせた場合、確実に三途の川へと直送されそうな気がして、想像しただけでも恐ろしさで身を震わせてしまいそうになる。
いや、ようは怒らせなければいいのだ。実に簡単なミッションだと自身を鼓舞しつつ、ニコニコと愛想よく笑う後輩の頭を撫でながらいつも通り笑顔を返した。
「でも先輩と合わさったらバランスよくないですか? 」
「二人でいるぶんにはなぁ。でも何かの拍子に
「一応できるんですよ? 卵かけご飯とか」
「出来る基準が低すぎる」
「あとは今流行りのキャンプ飯的なものはできます! えいやって獲物を仕留めて捌いて焼く! 」
「ワイルドだなぁ……」
こんな状況である。今はむしろ彼女お得意のサバイバル技能を存分に生かしてもらうことにして、自分は足手まといにならないように努めなければならない。
いくら体を鍛えているとはいえ、サバイバルの経験など皆無である。
過去に小柄で線の細い子供だったせいでいじめにあってから、近所の古武術道場でひたすら鍛え続けて今の体格を手に入れたものの、この世界で通用するのかと言えば謎だ。
こんな森の中で悶々と考えていてもしょうがないと思い、思考を切り替えて称号に目を移す。
「【異邦人】、【乙男】、【マタタビお兄さん】……猫カフェでのあだ名が称号になってる、だと? 」
「マ、マタタビお兄さん……っ! 」
後輩はそれだけ言うと口元を押さえて小刻みに震えていた。
おそらく笑いをこらえようとして失敗しているだろう。それが余計に笑いを呼んでいるのか、時折乙女にあるまじき吹きだすような汚い音が聞こえてくる。
正直、逆の立場だったら自分でも笑う自信がある。
「ふむ、魔獣や精霊が寄ってきやすい? ……従魔術にも大幅な補正がかかるらしい。従魔術って何だろうな? 」
「ほら、小説によくある魔獣とか精霊とかを従える術、じゃないですか? よかったじゃないですかー! 先輩の大好きなモフモフとかも従えられますよ! 」
「従える……だと? 」
「先輩? ……ひぇっ」
後輩がこちらを覗き込んで小さく悲鳴を上げた。
そんな逃げ腰の後輩の肩を問答無用でがっしりと掴み、表情が消えているであろう顔を近づけてから努めて冷静に言葉を続ける。
「いいか、従えるだなんてとんでもない。俺たちは彼らに奉仕する立場なんだ」
「は、はぁ」
「寛容で偉大な彼らは矮小で薄汚い人間に歩み寄ってくれる優しさを持ち合わせている。そんな尊い彼らの下僕となってご奉仕することはあれど従えるなんて……むしろ従うべきなのは俺たちの方だろう。純粋無垢なモフモフたちの側で侍ることこそ至高の喜びなんだよ」
「うん、たぶんそれ先輩だけですね」
「そんなはずは……っ」
「はいはい、モフモフへの愛を語る前にやることあるでしょ。とりあえず私の称号は【異邦人】、【一騎当千】、【世紀末覇者】らしいですよ」
「生まれる時代を間違えた奴の称号では? 」
現代社会にあるまじき称号に、今度はこちらが小さく悲鳴を上げてしまう。
いったいどんな人生を歩んでいたらこんな称号が付くのか。
「うるせーですよ! とりあえず私は前衛特化型みたいなんで、先輩は私の後をついてきてくださいね! 」
「はい……」
威圧を乗せられた一喝に思わず敬語になりつつも、スマホのマップを確認しながら街を目指して歩き出した。
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