第7話 ギフト
「先輩、これって……」
「今いる世界の地図、か? 」
「たぶん現在位置はここで……とりあえずこの森を抜ければ街があるみたいですね。見た限りかなり遠そうですけど」
「森を抜けるにしても丸腰じゃな。他に何か……おっ」
しばらくアプリを弄り回していると、右上のボタンの中に持ち物欄があった。
そこにはここに来る前に持っていた鞄や傘などが入っており、試しに鞄のイラストをタップしてみれば、淡い光と共に鞄が現れて手元へと落ちてくる。
「うわぁ、ファンタジー! 」
後輩がそう言いながらキラキラとした視線をこちらへと向ける。そして自分でも早速やるぞとばかりにスマホを操作し、同じようにして鞄を取り出してみていた。
正直に言えばこの状況、不安はもちろんあるがそれ以上に……年甲斐もなくワクワクしている。
今までの生活や家族のことはもちろん気になるが、この時点でできることなど現状に嘆くことくらいである。そんなのは生産的ではない。
今しなければならないことは感傷に浸ることではなく、生き延びる方法を模索することだ。
「これはステータス画面ってやつじゃないか? かなり簡易的だが」
「ゲームでよくあるレベルや数値みたいなのは無いんですねぇ。でも装備、スキル、ギフト、称号なんかが表示されてますね……ん? 」
「どうした? 」
「私のギフト……先輩の名前になってるんですけど」
「……はぁ? 」
後輩に見せてもらったステータス欄には、ギフトの部分に『
いったいどういうことだろうと考えたところで答えが出るはずもない。
詳細には『生活力が上がる』としか書かれておらず、あまりに簡潔な為に詳細とも言えないような内容だ。
「先輩のギフトは? 」
「……万能調味料セット」
「ブハッッ! なんですかそれ!! 」
『万能調味料セット』と聞いて吹き出した彼女は、何が居るかもわからない森の中だということも忘れて爆笑する。
確かに彼女が笑うのもわかる。ギフトなんてよさそうな能力が調味料だなんて、ガチガチ王道ファンタジー小説の主人公がこんな能力だったらさそがしがっかりするだろう。
しかし、これは自分たちにとってはとんだ福音である。
「お前、これめちゃくちゃいいギフトだぜ? これから異世界生活をする俺らの生命線だ」
「……はっ! 確かに! 」
ここは異世界である。今までいた地球の物がこの世界にあるとは限らない。
どういう文明を築いていて、どこまで文化的なのかさえもわからない中、資本となる肉体を維持するのが食事だ。
食の文化など県を跨ぐだけで変わるというのに、国どころか世界まで超えてしまっているのだから、調味料一つとってもまったく別物なのではないだろうか。
特に日本人である我々は食に関しては酷く貪欲だという自覚がある。
他国の人間では消化できない物を平気で食らい、毒物であっても技術一つで食用へと昇華させる。
他国からはその飽くなき食への探求心に対し、密かにドン引かれているらしい日本人が、果たして塩味一つで満足できるだろうか。
「俺には、無理だ……。よかった、調味料セットで」
「私は意外とイケますけどね。両親の影響でサバイバルとか野営には慣れてるんで」
「お前、いったい何者なんだよ、ホントに……」
へへッとやんちゃな少年のように笑う後輩に、思わずそうツッコまずにはいられなかった。
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