第6話 インフィニティ・ワールド
見えないところから後輩の「ウッ、生あったかい……」だの「ゴワゴワする」だのという文句が聞こえるのを無視しつつ、改めて今この状況を確認するように周囲を見回した。
樹齢がどれほどか想像もつかないような見た目をした樹々は、大地に深く根を張りあちこち隆起させている。木漏れ日が花咲く大地を照らす光景は非常に神秘的であり、日本ではまず見られないような独特の神聖さを覚えた。
所々苔生しているわりには肌に感じる空気はそれほど湿っておらず、瑞々しさはあれど日本独特のあの舐めるような不快感は無い。風が吹けば少しばかり肌寒く感じるくらいの気候に、ここが間違いなく日本ではないことを悟った。
「どうすっかねぇ……」
そんな独り言を呟きながらズボンのポケットを探るが、肝心の煙草が無くて思わず肩を落とす。
そういえば禁煙していたのだったと思いつつ取り出したのは、体温で若干溶けてしまった棒付きキャンディー。
荷物は無いのにこれは残っていたのかとなんとはなしにそう思いながらも包装を剥がして口へと運ぶと、イチゴミルクの甘ったるさが舌に溶けてジワリと広がる。
煙草の代わりには到底ならないものの、特有の甘さが気分を落ち着かせ、股間当たりの風通しのよさも相まって、少しばかり心に余裕が生まれた気がした。
そうこうしている間に物陰から後輩が出てくる。彼女の気分も幾分か落ち着いたようだが、その表情は相変わらず複雑そうだ。
「これからどうする? 」
「どうするって言われても……とりあえず今の状況ってあれですよね? 異世界転移的なやつですよね? 」
「まぁ、おそらくそうなんだろうなぁ。ってか持ってたはずの荷物が何もないのが痛い……って、あ、スマホは持ってるな」
「ポケットの中に入ってる物は大丈夫だったみたいですね」
返してもらったジャケットの内ポケットからスマホを出して画面を見ると、待ち受けにしていたマユミちゃん(猫)がいつもと変わらず可愛らしいゴメン寝を披露していた。
思っていた通りネットやSNSには繋がらず、電話をかけても無音のまま繋がる気配は微塵もない。
よくよく見てみると電波のマークは圏外どころかその表示すらなく、なぜか電池マークの代わりに見たこともない炎のようなマークに置き換わっている。
表示された時刻はすでに深夜を回っており、人々が寝静まるような時間帯だが、目の前の光景は木漏れ日が落ちる昼間の森で、どう見ても夜ではない。。
非現実が現実となったのだと、そろそろ認めなければならないのだと改めて自分に言い聞かせることになった。
「先輩、スマホのアプリに見覚えのないものが入ってるんですけど……なにこれ、ゲーム? 【インフィニティ・ワールド】? 」
「俺のにも入ってるな。なんじゃこりゃ」
そのアプリを開いてみると、壮大な音楽と共に三十秒ほどのオープニングが流れた。
風に揺れる草原を舐めるように視点が動き、そのまま遥か蒼穹へ、そしてそこから幽玄な森を彷徨い海へと出ると、海上を滑りながら雄々しい孤島の火山へと視点が変わる。金色の目を輝かせたドラゴンがチリチリと口元に炎を灯す。吐かれた炎の先にはファンタジックな街並みが現れ、様々な種族をすり抜けて美しい城をへとたどり着いたところで光が溢れ、【インフィニティ・ワールド】と表示された。
タイトルをタップすると特に何の説明もなく世界地図のようなものが表示され、右上にはいくつかのマークが表示されており、地図上には青いマーキングが二つ立っている。
試しにピンチアウトしてみると、地図がスルスルと拡大してより細かい場所まで見れるようになり、青のマークを中心にピンチアウトをすれば、そのマークの上に自分の名前と後輩の名前が浮かびあがった。
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