髪を切る、

 下手っくそなバンドの、キャッチーなだけの歌が流れていた。テンプレートをいくつか組み合わせただけのありがちな歌詞と、二度の意味のない謎転調が申し訳程度のオリジナリティーを演出している、凡庸なコード進行。


 失恋ソングなんかじゃなくて、幸せな歌だったならまだましだったんだろうな、と呟く。安っぽさに説得力が生まれるから。だって幸せな人間は物事を深くは考えない。いつかこの幸せが終わるって事実から、できるだけ目を背けているために。


 髪を切るために使われることなど全く考えられずに作られたコンパクトなはさみ。耳の横に持っていって、左手で髪を一房持つ。嫌になるほどさらさらだった。

 さすがに、手が震えた。


「CMの後は、YouTubeで一千万回再生、超ハイテンションで『カワイイ私』を歌ったあの曲です!」


 曲が止まり、ハキハキとした女子アナの声と明るいBGMが流れる。テレビの中では全員同じ顔をした四人組アイドルが、指の関節を痛めそうなポーズを決めていた。


 私は唾を飲んで、それから右手に力をこめた。


 じょきり。驚くほどはっきり、その音は響いて、ああ、痛いな、と思った。

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