脱出
空いたまま。
空いたままだ。
「……」
僕は空いたままになった部屋の扉を眺める。
慌てて家を飛び出していった環奈は、いつも閉めていっている扉を閉め忘れていった。
「……逃げられる?」
今なら、逃げられそうだった。
環奈の家の扉はかなり分厚い鉄の扉になっていて、開閉には相性番号が必要になる……家にあるものとは思えない、ガチガチの扉だった。
「……」
僕は自分の視線を首元にある首輪へと送る。
首輪は壊せない……でも、その首輪から伸びている鎖の中には壊せそうなところがあった。
「見つけた」
鎖を辿っていき、壊せそうだった部分を見つけた僕は一切迷うことなく手を振り、その鎖を破壊する。
「……あっ」
鎖は破壊された。
少し、弱っていた部分の鎖であれば、例え鉄製であっても、手刀で破壊することが出来た。今の、衰弱した僕でも簡単だった。
僕は立ち上がり、歩き出す。
歩き続け、歩き続け、普段であれば、鎖のせいで行くことの出来ない部分にまで進んでいく。
「……」
そして、僕は部屋からも出る。
驚くほど簡単に、あっさりと部屋から出ることが出来た。
「……あの、家なのか」
部屋から出てしばらく。
リビングの方に出てきた僕は既視感と共に口を開く。
この、リビングのソファで僕は眠っていたのだ。懐かしい……とはいえ、あの日とは違い、完全にカーテンが閉められているせいで薄暗かったが。
「……」
僕は無感情に、無感動に、玄関の方へと向かって行く。
「出れる、のか」
玄関の前に立った僕は扉を眺め、それから、ゆっくりと自分の手を伸ばす。
「……」
僕は玄関の扉を開け、そのまま一歩、前へと前に足を進める。
「うっ」
その瞬間、長らく陽の光を浴びれていなかった僕の視界が日光でくらむ。
そして。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ……っ。ようやく、出られたのか……」
陽の光。
それを浴びて、自分がこれまで閉じ込められていた部屋から解放されたのだということを理解したその瞬間、僕は思わず崩れ落ちてしまうのだった。
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