「な、なんで、ここに……?」

 

 僕は自分の前にいる環奈へと疑問の声を漏らす。


「さっき言ったじゃん。助けに来たんだよ」


「ど、どうやって」


 環奈の言葉。

 それに対して、僕はさらに疑問の言葉を続けていく。


「頑張ったんだよ……君を、攫うなら静音だと思ってね。だから、頑張って探り当てたんだよ。だからさ、完全解決にまで話をすすめさせられたわけじゃないから、早く逃げよっ。早く逃げないと、静音に探り当てられて大変なことになっちゃう」


「そ、そっか……!」


 僕は環奈の言葉に慌てて頷く。


「あっ、で、でも……鎖が」


 そして、立ち上がろうとしたところで気づく。

 僕は今、両腕に枷をはめられているような状態で、ここから逃げることは中々難しい。


「大丈夫。ちゃんとそれを壊せるようなものを持ってきたから」


 そんな僕の前で、静音は背負っていたリュックからひとつの大きなチェンソーを取りだした。


「え、えぇ……?」


 想像よりもごついそれ。

 それを見て、僕は呆気にとられる。


「……やば」


「大丈夫。私、ちゃんとチェンソーを扱えるから。安心して、私の前に手を出して?」


「う、うん……」


 ───冷静に振り返れば、チェンソーの前に自分の腕を差し出すなんて頭がおかしかったと思う。

 でも、この時の僕はすんなりと、静音の前に両腕を差し出した。


「ほら、これで解放」


 けたたましい音が鳴り響いたあと、僕の両腕を縛っていた枷はあっさりと壊された。


「ほら、逃げるよ」


「あっ……」


 自由になった僕の手を呆然と眺めていた自分の手を取り、環奈は突き進んでいく。


「ほら、走って!」


「う、うん……!」


 これまでずっと閉じ込められていた部屋を出て、直ぐにあった階段を登っていく。

 階段を登った先にある扉を環奈が蹴り破って更に進んでいく。

 かなり損傷が見られる長い壁を走り抜けて、更にまたある扉をまた、環奈が。

 長い廊下を抜けた先は小さな書斎。

 その書斎から出て、少し進めば直ぐに玄関の方が見えてきた。

 そんな道のりを、僕は環奈に連れられるような形で突き進んでいた。

 

「まぶしっ」


 環奈がなにげなく開けた玄関の扉。

 それに伴って、僕の方に伸びてきた久しぶりの太陽の光。

 それに対して、僕は目を窄める。


「……あれ?今は、夜じゃないの?」


 そしてすぐに、僕は首をかしげる。

 少し前に静音は、もう夜だと話していたはずなのに……。


「美しい朝よ。さっ、行きましょ」


「……うん」


 久しぶりに浴びる太陽の下。

 僕は環奈とともに、街の中を走り出したのだった。

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