「……」


 屍のように生きる日々だった。

 訳もわからないままに監禁生活を続ける僕はもう生きているような気がしなかった。

 心身ともに、限界が近いと僕は何となくわかっていた。


「……ハハッ」


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 もう、嫌だ。

 何で急に静音はこんなことをしたんだ……なんで、なんで、なんで。

 僕の心は動揺する。

 荒れ狂う。

 もはや、既に静音に持っていた恋心などは忘れてしまっていた。

 だって、だって、だって、そうじゃないか……こんなことをしているなんて知らなかった。こんな子をする子だとは思ってもみなかった。

 なんで、なんで、僕はこんなことになっているのか。


「帰りたい。帰して……」


 心には出来るだけ蓋をしようと思う。

 蓋を、蓋を……蓋を。


「……ッ」


 でも、それにだって、限界がある。

 静音がいない。何もすることもない暇な時間の中で。


「……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」


 時には、蓋を仕切れずに自分の中の弱みを真正面に晒してしまうことがある。

 それが今だ。

 僕は久しぶりに封じきれなかった、自分の心のうちの感情に揺れ動かされる。


「……助けて、環奈」


 縋れるものは何か。それを探すべく、口内で言葉を転がす。


「助けて、お───ッ!?」


 吐かれていた僕の弱音。

 それを打ち破るかのように、いつもよりも強引に部屋の扉が開かれる。


「……静音」


 また、静音が来た。

 そう思い、僕は視線を持ち上げる……彼女への恐怖心は大いにある。でも、それ以上に、孤独というのは───。

 様々な感情を折り混ぜながら、僕は静音がいるであろうこの部屋の扉の方に視線を送った。

 

「えっ?」


 だけど、扉を開けて僕の前に現れたのは静音じゃなかった。


「か、環奈……?」

 

 何故、ここにいるのか。

 僕の前に今、立っているのは静音ではなく環奈だった。


「うん。そうだよ。環奈ちゃんだよっ。さっ、輝夜」


 呆然とした表情で、扉の方に視線を向ける僕に対して。


「助けてきてあげたよっ。さっ、二人で一緒にここから出よう?」


 環奈は、僕に向かって、いつものような笑顔を向けてくるのだった。

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