諦観

「ようやく輝夜と落ち着いて過ごせるわ」


 僕が静音の手によって監禁された日から、一体どれくらいの時間が経っただろうか?


「ほんと、色々とやらなきゃいけないことが多すぎたわ。本当に頭がいたくなっちゃいそうだったもの……はぁー、本当に面倒な奴らだったわ。細心の注意を払わなきゃいけなかったし。でも、そのおかげで二人だけの空間を作れたわ」


 もはや、わからなくなってしまった。

 

「……そうだね」


 まともに熟睡できたのは一体、どれくらい前だろうか。

 吐かずにご飯を食べきれたのは一体、どれくらい前だろうか。

 最後にお風呂へと入ったのは一体、どれくらい前だろうか。

 最後に日の光を浴びたのは一体、どれくらい前だろうか。

 最後に体を動かしたのは一体、どれくらい前だろうか。


「ふふっ、久しぶりの、二人きりのちゃんとした時間だね」


 もう何もかもがわからない。体は動いてなくともベタベタで、食べているはずなのにずっとお腹は空いていて。それでも、常に体の中にある気持ち悪さから食欲は湧かなくて。でも、ご飯食べていない上に運動も出来ていないから、体に力が入れない。まともに寝れてもいないから、常に倦怠感と眠気を感じる。頭だって常にぼーっとし続けているような感じだ。睡眠不足が見えない鎖となって、僕のすべてを阻害してきている。うまく思考がまとまらない。それと、太陽の光を浴びたい。太陽の光は健康にいいらしいのだ。セロトニンの分泌によって、幸せになれるはずなのだ。太陽の光を浴びていない僕にはそれが足りていない。まったくもって足りていない。そんな状態で幸せになれる道理があるだろうか?あるはずもないのだ。そう、実に単純な論理だ。ぐっすりと眠りたい。お腹いっぱいに食べたい。お風呂にゆっくりと浸かりたい。お日様の下で運動を楽しみたい。


「それじゃあ、カードゲームでも一緒にしない?……私はまだ、そんなに強いわけじゃないけど」


 カードゲーム……カードゲーム。あぁ、カードゲームか。


「……僕、デッキなんて持ってきていないよ?」


 僕は何も持たずにここへと来た。

 デッキなんて、持っているわけがない。


「大丈夫。持ってきているから」


 デッキを持っていない。

 そんなことを主張する僕に対して、静音は一つのデッキケースを取り出す。

 確かに、それは僕が一番使い込んでいるデッキを入れているケースだった。


「あるから、一緒にやろ?」


「……じゃあ、やろうか」


 もう、何も考えたくない。

 考えられない。


「えぇ、やりましょう」


 僕はただ、自分の前にいる静音の言葉に頷き、大人しくその言うことに徹するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る