口移し
生まれてから、二人目のキス。
それと共に流し込まれたのは様々な味が織り交ざった食事。
「……ッ!?」
静音が丹精に咀嚼したことで触感もクソもなくなり、べちゃついた食事から感じられるのは甘味、酸味、苦み、辛み、塩味、旨味……ありとあらゆる味覚が一切の調和もなく混ぜられたそれで。
一言に集約すれば、不味いに行きつく。
「……んっ……んっ」
「ちゅっ……んっ、はぁ……」
それを、僕は強引に静音から流し込まれ続ける。
静音の舌がぐちゃぐちゃになった咀嚼物と共に僕の口内を蹂躙し、僕の舌を舐める。
「げほっ、げほっ」
静音の口内も、僕の口内も空になったところで、静音の口が僕の元から離れていく。
口内が解放されたあと、僕は強引に胃の中へと押し込まれた咀嚼物を吐き出すかのように咳する。
「くちゃ……くちゃ……くちゃ……」
そんなことをしている間に、また、僕の前で静音がお盆の上にある食器から食べ物を口に含み、咀嚼を始める。
「……ッ」
僕と静音の間に距離なんてもうないと言っていいほどだ。
ここまで近ければ、静音の咀嚼音までしっかりと聞こえてくる。
「あーんっ」
それに体を震わせていた中、静音が両腕を塞がれている僕の体を抱き寄せ、その口を開ける。
また、口の中にあるのは彼女の口内で混ぜられ、元の原型が何であるかもわからなくなった、一つの虹。
「んっ!?」
そして、また、それが僕の口内に入ってくる。
「んっ……っ」
不味い。まずい。マズイ。
「……ちゅ……んっ、はぁ……」
「……ッ」
静音の舌が僕の舌へと絡みつき、静音の唇が僕の唇へと吸い付く。
その内側で揺れ動くのは互いの唾液でもう何であるかもわからなくなった……料理とは呼べない食品の成れの果て。
「……っ」
僕の嗅覚が、異臭を放つ料理の匂いと、それとはまた別種の甘ったるい匂いを醸し出す静音の匂いを捉える。
その二つが織り交ざるそれは不快としかいえなかった。
その匂いが僕の脳内
でも、もう一つの呼吸口である口は静音に塞がれている。その上、僕の口は今、鼻以上の混沌に襲っているような最中でもある。
「はっ……はっ、はっ」
喘ぐ。
息を求めて。鼻で、口で。
それでまた、僕の脳はパニックとなる。うまく、息が吸えない。
「すぅー……はぁ……はぁ……」
気持ち悪い。
最初の時よりも長い口移しから解放された僕は呼吸を繰り返しながら、くらくらとしたものを感じる。
「げほっ、げほっ、げほっ」
静音は、……僕は、霞む視界を持ち上げ、自分の前にいる静音を眺める。
「……あぁ」
僕の前にいる静音。
その頬は火照り、息は荒れ……こちらへと潤んだ瞳を向けてくる。
理解、出来ない。思考が遠のく。
「あぁ、……じゃあ、お水を飲まないとね」
お盆に乗せられている水が注がれたコップ。
それを静音は迷うことなく掴んでその中身を、僕の口に流し込むのではなく、自身の口へと流し込んでいってしまう。
「……あっ」
「くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ」
確かに透明だったはずの水。
「……ッ!?」
そんな水は、僕の口の中に入ってくるときには静音の唾液と混ざり、濁っていた。
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……明日が誕生日の僕は一人で何を書いているんだ
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