何故

 何で。

 その感情が僕の中で渦巻く。

 なんで、全然見知らぬ部屋に輸送され、その上に両腕を縛れている僕の前に……静音が現れるのかと。


「……でも」


 確かに、静音なら今の状況にも納得だ。

 静音はずっと昔からの仲で、……それで、僕が警戒しなきゃいけない相手とはまるで思っていない。

 だから、静音が僕の枕元に立って、そのままここに運んでくるまで、僕がぐっすり……静音以外が僕の枕元に立てば、絶対に気づく。

 そうであるように鍛えているし。


「……静音が、こんなことを?」


「えぇ、そうよ」


 震えながら告げる僕の言葉。

 それに、静音はあっさりと頷く。


「急に貴方が愚かなことを言うのだもの。こうするしかないでしょう?貴方の体に、心に、教え込んであげなきゃ……」


「な、何を?」


「ここからは出られないよ?輝夜が喧嘩強いことも、人間離れした身体能力を持ち合わせていることも当然知っている。だから、それでも壊れないように作ってみたわ」


 静音の言っていることは間違えていない。

 僕は自分の武に自信があるし……監禁されたとて、脱出できるような自信は結構ある。

 でも、ここから脱出できる自信は……あまりなかった。それくらい、丁寧に作られていた。


「……なんで、こんなことを?」


「そんなことより、さ」


「……そんなこと?」


 一体、どこの何がそんなことなのだ……ッ!

 いま、一番大事なことじゃないかっ。何で僕は今、こうして静音に囚われているんだっ。

 その理由が……その理由が、理解出来ない───ッ! 

 理由……理由になりそうなもの。


「……僕にかの」


 それとしてパッと思いつくのは昨日の───。



「ねぇ、お腹空いたでしょ?輝夜」


 

 ゾッと、背筋が凍る。


「……ッ!?」


 僕に向かって放れた静音の言葉を前に、僕は言葉を詰まらせ、息を呑む。

 何故か、先ほどの静音の言葉からは抗っちゃいけないような、あまりにも強く冷たい意思が含まれているように感じた。


「だからさ、夜ご飯を作ってきてあげたの」


 これまで注視していなかったお盆。

 それの方に意識を払ってみれば、そこには彼女の言う通り、食器が載せられていた。その食器の中にあるものは暖かな湯気をあげている。


「……なに、それ」


 ただし、その見た目は明らかにゲテモノであり、料理とは認めたくないような何かであったか。


「……はっ?」


「……ぁーん」


 食べ物を口に含んだまま、僕の方へと近寄り、その口を開けた静音は。


「……ッ!?」


 そのまま僕と唇を合わせ、その中にあった食事を流し込んできた。

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