静寂

 広い一軒家で一人暮らし。

 基本的にはいつも静寂に支配されている。

 ただ、朝方と夕方からは一部の部屋で生活音が響き、時たま絶叫の声を響き渡る。

 基本的には静寂な一軒家。

 それでも、完全なる静寂ではないこの場所。

 だが、そんな家には完全なる静寂がしばらく、3日間ほど続いていた。


「何処に、行ったの……?輝夜は」


 そんな静寂を打ち破る、3日ぶりの声はその家の家主───輝夜ではなく、環奈の声であった。


「ゲームにもログインしていないから来てみれば……どこに行っちゃったの?輝夜……」


 環奈が見回るのは誰もいない輝夜の家だ。


「な、なんで私はもっと早く来なかったの……!」


 行為の余韻。

 それと、強行に対する輝夜の反応への恐怖により、少しばかり環奈の行動が遅くなってしまったのだ。

 

「まさか……あの行為で、……じ、自殺とか」


 環奈の声が震える。


「いや、違う……輝夜だって、抵抗しなかったし、気持ちよさそうにしていた……だからっ!」


 ただ、その行為は間違いなくレイプと言ってもいいようなものだ。

 抵抗しなかった。だから同意した。それは無茶筋というものだ。

 間違いなく、環奈の行為は犯罪と言っていいようなものだ。


「し、仕掛けた録音機は……っ」


 今日、環奈がやってきた理由は盗聴器の予備としても仕込んでいた録音機。

 当然のように環奈が仕掛けた盗聴器は3日前にその機能を停止させている。だからこその、予備の回収だ。

 フラフラと、環奈は輝夜の部屋に向かっていくのだった。


 ■■■■■


 場所は変わって。


「ふんふんふーん」


 とあるひとつの部屋。

 そこに楽しそうな鼻歌が響く。


「輝夜、喜んでくれるかな?」


 …………。


 ……………………。


 ジャラジャラ……ジャラジャラ……ジャラジャラ。

 鎖の音だけが、静かな部屋に響く。

 いや、よく耳をすませば、その部屋に響く音が鎖の音だけでないのがわかる。


「すぅ……すぅ……すぅ……」


 鎖の音の奥から、小さな、小さな寝息の音も静かに響いているのだった。

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