シャワー

 自分の体を上から水を叩く。


「はぁー」


 そんな中で、僕はため息を吐く。 

 僕は今、環奈との行為で汚れた体をシャワーで流している最中だった。

 自分の鼓膜に振動を届けるのシャワーより溢れる水が床を叩く音だけだ。それでも、僕の脳が捉える音は、反響させる音は環奈の艶やかな嬌声だ。

 それに対して、僕は再度、ため息を吐こうとして。


「いや、これは……環奈に失礼だ」


 だが、それを途中で止める。

 環奈の体に溺れたのは事実なのだから。

 ……。

 …………そう、強引な形ではあった。それでも、僕は遠ざけられたのに遠ざけなかった。僕は受け入れたのだ。

 僕は環奈のことを受け入れた。


「……」

 

 僕は、どうしたんだろうなぁ。

 まだ、ここに来てもまだ、静音の影は僕から離れちゃくれない。

 でも、静音のことをさっさと忘れた方がいいことくらいはわかっているんだ。

 やるべきことはわかっている。

 それでも、その上で感情の方は納得してくれない……環奈と、あんなことまでしたというのにっ。


「……情けない」


 何も答えは出していない。

 出せていない。


「本当に、僕ってやつはっ」

 

 それなのに、逃げちゃったんだ、僕は。静音への失恋も、後悔も、何もかもを忘れさせてくれそうな環奈の方に逃げた。流された。

 僕のことを好きでいてくれる環奈に対して、最低な形で応えたのだ。


「最低だ……」


 シャワーを浴びる僕は自己嫌悪の沼へと陥る。

 本当に、情けない……ッ!


「私も一緒に入っていい?」


 なんてことをしていた中、いきなりお風呂の扉が開き、全裸の環奈が僕の方へと姿を見せる。


「はっ?」


 それを前に、僕は驚愕の声を漏らして環奈の方に視線を送り、そして、心を奪われる。

 改めて見てみれば、環奈の姿はあまりにも美しかった。

 その相貌も、体も。純白で。

 だけど、それを汚したのは僕だ。


「……輝夜?」


「……」


 全裸姿の環奈を前に、僕は口をまごつかせる。

 なんて答えればいいのか、言葉は何も出てこなかった。


「そ、そんなにまじまじと見ないでよっ!あんなことをした後でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよっ!」


「ご、ごめん……」


「それで、私も一緒にお風呂へと入っていい?一緒に入った方が、早くない?」


「……そう、だね」


 そして、また、僕は沼から抜け出すための一歩を踏み出さなかった。


「そ、それで、さ……わ、私の体は、輝夜から見て綺麗?」


「……うん。綺麗だよ、本当に」


「ふふっ、嬉しっ」


 ……。

 …………。

 僕に、環奈を喜ばせる権利なんてないのに。

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