返事

 環奈のことは嫌いじゃない。

 嫌いであるはずがない。むしろ、好きだ。

 ずっと一緒にゲームをして、一緒に遊んで、そんなのを好きでもない相手としようとは思わない。

 ただ。

 思っていなかった……環奈が僕のことが好きなんて。

 それは、なんでか……結局のところ。


「……あぁ」

 

 ───改めて、僕は静音しか見れていなかったんだな。

 

「……ひっ」


 気づくべきだった。

 気づける箇所なんて、振り返ってみればいくらでもあった。

 本来気づくべきだっただろう。どんな鈍感野郎だって、これまでの静音の行動を考えれば、気づくことが出来ると思う。


「……」


 でも、僕は最初から……環奈とまだ、知り合うよりも前から、静音のことが好きで、彼女のことしか見ていなかった。

 だから、環奈と恋愛関係でどうとか思ったことなんて一度たりともなかった。

 だから、気づけなかった。

 だから、……気づこうなんて、環奈が僕のことが好きなんだって、そんな発想すらなかった。


「……」


 直接、言われて。

 それで、気づけて。

 そんな環奈を前にして、思っているのは……なんて残酷なことを考えているんだろうか。好きだ、と。そう告げてくる相手のことを、恋愛関係でどうとか思ったことが一度もないなど……ッ。

 本人に、言えるわけも……。

 いや、そもそもとして、だ。

 他人からの告白を受けて、別の女の子の顔が浮かんでいる時点で、それがすべて。


「ごめん」


 答えは、決まった。

 女の子から告白されて、それでも、まだ振られた、別の女の子を思い出してしまう。

 何とも、未練たらたらで、情けない……でも、変われない。

 そんな僕が、こんな状態の僕が別の女の子からの告白を受けるなんていう不誠実な真似をすることなんて出来ない。


「僕は───」


「駄目だよ?」


 環奈からの告白を断ろうと開いた僕の口。


「……んっ!?」

 

 だけど、その口は強引に防がれる。


「んちゅ……んっ」


「んっ……はぁっ……」


 環奈の口によって。

 

「はぁ……っ」


「……っ!?!?」


 ファーストキスだ。

 長い長い、口留めの為に行われたキス……。

 自分の口元から環奈の口元へと伸びていく艶やかな反射を携える唾液の糸を眺めながら、僕はそんなことを思う。


「その先は、言わせない」


 僕と環奈の口元を繋ぐ唾液の糸。

 それを断ち切るかのように、環奈は口を開いた。

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