帰り道
一日の学校が終わり、時刻は放課後。
僕は静音と家に帰って行っている最中だった。
「……はぁー、私は今日も輝夜とお昼食べたかったのに」
その帰り道、静音が僕に向かって話すのはお昼ご飯を一緒に食べなかったことについてだった。
「ごめんって」
「ガッカリだわ」
「ほら、静音だって、自分の友達とご飯を食べたり、なんてこともあるでしょ?」
「普段はその子たちといるもの。お昼くらいは輝夜と過ごしたいわ。もっと、学校生活の中で輝夜が話しかけてくれるなら、満足してもいいのだけど」
「……いやぁ、学校の中で静音と仲良くするのはねぇ」
静音は僕にとって、高嶺の花。
というか、全ての男子生徒にとっての高嶺の花と呼んでもいいような少女だ。
文武両道で、見た目も芸能人顔負けどころか、普通に凌駕するような天然の美貌。体つきも程よい肉付きでスラっとしている。その上、ちょっと言葉遣いはクールで冷たい印象を受ける時もあるが、どんな相手であっても声をかけ、会話を交わすその姿は天使とさえ見間違う。
告白された回数は数知れず。
高嶺の黒百合、という密かに男子生徒が呼んでいるその二つ名がそれらの事実を語っていると言ってもいいだろう。
「陰キャオタクなもので」
そんな静音と学校でも仲良くしていたら、向けられる嫉妬の量が大変なことになってしまう。
ただでさえ、向けられる嫉妬は大きく、ちょくちょく嫌がらせを受けたりもするというのに。
まぁ、そんなクソみたいなことをしていても、どうせ静音には僕以外の彼氏がいるんだけどなぁ!……ぐすんっ。
「……誰がよ」
「僕がだよ」
完璧な陰キャオタクでしょぉー、僕はさ。
「あっ、もう家だ」
「逃げるの?」
「また明日。一緒にお昼ご飯を食べるよ。だから、それで許して?」
「……えぇ、わかっているわよ。貴方にも、貴方の交友関係があるものね。それを私は尊重するわ。安心して頂戴。私は重くない。重くなったりしないから……安心して」
「……ん?あぁ、そうだね」
なんで、急に重さの話?別に静音はダイエットを必要とするような体型じゃないように見えるけど。少なくとも僕は今の静音が一番……いや、僕の意見なんて必要ないか。
「じゃあ、また明日」
「えぇ、また明日」
思考を切り上げた僕は静音と別れ、自分の家に向かう。
そして、静音の方も僕の家から徒歩三分程度の家に向かって歩き始める。
「ただいま」
無くしたままの鍵。
それの代わりに使っている予備の鍵を使って僕は家の玄関の扉を開け、中へと入る。
「あら?おかえり」
「……えっ?何でいるの?」
誰もいない家に向けた言葉。
それに対して返ってきた返事……何故か僕の家にいた環奈の『おかえり』という言葉に対して、僕は心の底からの困惑の言葉を口から漏らした。
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