お弁当

 初めての学校でのあいさつ。


「それで?こんなところに僕を呼び出してどうしたの?」


 それを交わし終えた後、僕は環奈へと疑問の言葉を投げかける。


「一緒にお昼ご飯を食べたいと思って」


「あー、お昼?」


 お昼、お昼か……最近、僕は静音と食べているしなぁ。

 でも、朝の時間帯にお弁当自体は渡しているし、別にいいと言えばいいか。

 静音だって普通に友達いるし、友達のいない環奈と食べる方が。

 環奈だけじゃなく、静音も一緒に!というのもありかもしれないけど……女子二人に囲まれてのご飯は僕が気まずい思いをしそうなのでとりあえずNGで。


「でも、あれだ。僕、お弁当箱持ってきていない」


 トイレにお弁当を持ち込む奴なんていない。

 トイレを出る瞬間に連れていかれた僕は今、手元にお弁当箱を持っていなかった。


「安心して。の分も私が作ったわ。そのために、私はわざわざトイレを出たタイミングを狙ったからねっ」


「……そ、それはありがたいけど、余ったお弁当は行き場所を失っちゃうんだけど……」


「それは貰ってあげる。私が夜ご飯にするわ」


「いや、別に環奈は両親が作ってくれたご飯があるでしょ」


「最近、両親が研究の為として、海外の方に行っちゃったから、私は一人暮らし中なの。だから、何の問題もないわ」


「あっ、そうなんだ……いや、だとしてもなぁ」


 とはいえ、だとしても、自分で作ってきたお弁当があるのだ。

 それを環奈に渡して、それで環奈が作ってきたお弁当をもらうというのは……うーん。お弁当交換会だと思えばいいの、かな?


「……私、輝夜に食べて欲しくて作ってきたのよ。それで、学校にまで来て」


「うぐっ」


「……ダメ?」


 環奈は、明らかに狙ったであろう顔の角度で、上目遣いと共に僕へと懇願の言葉を口にする。

 

「それは、ズルいなぁ……それを言われて、断れるわけないじゃん」


 虐められたいう悲しい経験。

 それがあって引きこもりになってしまったというのを環奈の口から直接聞いている。

 だから、そんな彼女が学校にまで来て!なんて言うのは反則だ。こちらがどうあっても断れないじゃないか。


「じゃあ、ありがたく頂こうかな」


「うん!ぜひとも味わって食べてね!ここで食べるため、レジャーシートも持ってきたよ!ここで食べるならやっぱり、レジャーシートは必須。誰も来ない階段下とか、掃除の手は行き届いていないからね」


「……おぉ、用意周到なことで」


 階段下で食べるの?もっと他に別な場所があるんじゃない……?

 なんてことを思いながらも、楽しそうな様子でレジャーシートを広げている環奈を見て、その疑問を流して素直に従うのだった。

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