部屋

「ふふふ……」


 焦らなきゃ。

 その一心で動き出した環奈はまず、輝夜の家にまで押しかけていた。

 それでしっかりと、生で会って交流を深め合うことに成功した。

 そして、収穫は、決してそれだけじゃない。


「……げっと」


 一日中輝夜の家で遊んで自分の家に帰ってきた環奈の手には今、一つのキラリと光るものが握られていた。


「これで、いつでも会いにいけるよ?」


 そのキラリと光るもの。

 それは環奈が自作した、輝夜の家の合鍵だった。

 輝夜が無造作に、無警戒に置いていた家の鍵を拝借し、その型を環奈は取っていたのだ。


「へへ」


 これこそが、環奈の一番の目的だった。

 静音も持っている輝夜の家の合鍵。

 それを環奈も手に入れたことになる。


「んふふ」


 合鍵を眺めながら嬉しそうに頬を緩める環奈が体を横にさせているベッド。

 それが置かれている環奈の部屋。

 そこは狂気に満ちている。

 部屋の壁には隠し撮りした輝夜の写真が並べられており、置かれている私物も女の子のもの、というよりも男の子のもの───輝夜のものがさも当然のように置かれている。

 そして、何よりも目を引くのが部屋に置かれている大きな、誰かの等身大フィギュア───もちろん、輝夜の精巧に作られたフィギュアであり、着させられている服だって輝夜が着ていたものだ。

 これらは環奈が輝夜からもらったものだ。新しいものと引き換えに。

 リサイクルに出すから、そういえば輝夜はそうなんだ、と軽く頷いて、己の私物を何の疑いもなく渡してしまうのだ。


「本当に無警戒なんだがら、ちょっと心配だよ?」


 怪しい人物。

 その筆頭格とも言える環奈が輝夜を心配しながら、これまた今日の戦利品をカバンの中から取り出す。

 取り出したのは一つのジップロック。

 

「輝夜のゴミ袋って、ちょっと数多いよね」


 そのジップロックに入っているのは一つの、丸められたティッシュペーパーだ。


「あぁ……この匂い」


 それを取り出し、己の鼻を近づけさせる環奈は蕩けたような表情を浮かべる。


「匂いだけ、子どもを産めちゃいそう……っ」


 そのティッシュ。

 それが何かを正確に語ることは出来ない類のものだが、確実に一人の立派な男児のゴミ袋であれば、必ずあるようなものだ。


「んっ……」

 

 夜。

 それを手に持つ環奈はベッドへと寝っ転がりながら、自分の手の平を己の下腹部へと持っていくのだった。

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