喧嘩

「おい!なんだよ、お前、ずっと殴られるだけかよっ!」


「さっきまでの、イキった様子は何処に行ったんだよっ!」


「こんのクソ陰キャが!」


「ほらほらほらっ!」


「ですですぅっ!」


 私の前にかなり劇的な形でやってきた輝夜は今、好き放題、やられたい放題でこちらへと絡んできた三人の男たちの攻撃を受け、体を痛めていた。

 その様子はただのリンチ……。

 でも、輝夜はずっとそんな感じだった。


「これだけ殴られば、正当防衛だよね。うん、これで良し」


 自分の腹に向かって振るわれる拳。

 これまでずっと殴られるままだった輝夜はそれを軽く受け止め、そのまま強引な形で相手を吹き飛ばす。


「……はっ?」


 一人が吹き飛ばされ、周りが動揺で動きを止めた中で。


「ふぅー」


 殴られるままだった輝夜は息を吐きながら口元の血を拭う。


「邪魔」


 そして、輝夜は眼鏡をはずしながら彼の端麗な顔だちを普段目立たなくさせている前髪をかき上げ、口元を拭った際に手へとついた血をワックス代わりで髪を固める。


「さて、お前ら……好き放題殴ってくれやがったな。おい」


 何時もの輝夜。

 小中学生の頃はチラホラ見ることのあった輝夜の姿がそこにはあった。

 鋭い眼光で敵を睨みつける……ちょっぴり怖くも、カッコいい輝夜の姿。


「ちょっ、まっ!?」


 輝夜は流れるような動きでまず一人の顎に向かって拳を振るう。

 顎を掠めたその素早い一撃はいとも容易く気絶させた。


「なっ!?」


「2人目」


「でぇ、すぅーー!!!」


 そして、その次に放った蹴りが謎に『です』だけで会話を行う狂人を吹き飛ばして気絶させる。


「う、嘘だろ……?」


 そうそうにふたりが気絶させられた。

 その事実を前に、最後に残った私を呼びだした男が信じられないとばかりに体を震わせる。


「な、なんで……」


「ん?」


「なぜ……お前のような陰キャが、陰キャがこれだけのことを……なんでお前がこんなこと出来るんだよ、おかしいだろっ!?」


「……いや、それは事実だけどね」


 私を呼び出した男の言葉を受け、輝夜は苦笑を漏らす。


「でもほら、君の実力が足りないだけじゃない?」


 そして、その次の瞬間には言葉で殴りかかっていた。


「こんの……!舐めんじゃねぇぞ!!!」


 その挑発へと乗り、男は握りこぶしを固めて輝夜へと殴りかかる。


「もう当たらんよ?」


 それを軽く避けた輝夜はその反撃で相手の腹に膝蹴りを叩き込み、体を浮かせる。


「さようなら」

 

 浮き上がった体。

 それに向かって、輝夜は回し蹴りを叩き込み、その体を吹き飛ばす。


「よし、これで良し……大丈夫?」


 私のことを囲んでいた三人。

 それを軽くボコボコにした輝夜はいつもとはまるで印象の違う相貌を私の方に向けながら、その上でいつものような優しい笑みを向けてくれるのだった。

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