見知らぬ男

 失恋した。

 それでも、僕は変わりない生活を何とか送ることが出来ていた。

 もう、それはそれは本当に失恋なんてしたのかと思うくらいにはいつも通りの生活を送れていた。本当にありがたいことにね。

 環奈にも助けられて、沈んでばかりの生活ではない。


「……とはいえ、こんなところまでいつも通りじゃなくていいんだけどね」


 そんな生活の中のもはや一部。

 担任の先生からの無茶ぶりでいつものような雑用を終わらせた僕は苦笑を漏らしながら、体を伸ばす。


「まっ、帰りますか」


 そして、僕は帰路の方についていく。

 仕事を終えた時に居た場所が旧校舎なので、また、僕は新校舎の方へと戻っていく必要がある。


「……静音?」


 その途中。

 旧校舎から新校舎の方に移動していた途中で、僕は見たことのない男の後をついて歩く静音の姿を見つけてしまう。


「えっ……?」


 旧校舎から新校舎への移動中。

 静音と見知らぬ男。ついで言えば、今日の僕は何時も一緒に帰っている静音から先に帰っていてと言われていた。

 どうしても、この構図で思い出しちゃうのは僕が己の失恋を知った時だ。


「……あれが、彼氏、だろうか?」


 一切、自分に影を見せてこない静音の彼氏……それが、あれか?

 ……僕を遠ざけて、会っていた男か。

 ……。

 …………彼氏、なのかもなぁ。告白さえも、していない僕が正しいのは、このまま何も見なかったことにするのが一番だろう……いや、別に告白していたからと言って、干渉していいはずもないけど。


「……ただ」


 それはそれとして、何となく不穏な気配を感じる。

 僕の勘が何か危ないと話しているし、静音の表情も険しかった。

 それに、普通付き合っているのなら隣り合って歩くのでは?何故、あの二人は縦で?……純粋に、誰からか見られても大丈夫なよう、とか考えられるか。

 行く、べきじゃぁ……。


「……うぅ」


 でもなぁ、でもなぁ……ここは、気になるし、静音の後を追いかけたい。

 だけど、別に付き合っているわけでもない僕がここで静音の後をついていくのは流石にキモすぎじゃないだろうか?


「……どうしよう」


 僕はその場で立ち止まり、思考を張り巡らせる。

 僕は今、ものすごく悩んでいた。

 ……。

 ………それでも、だ。


「み、見るだけ……見るだけならいいよね?」


 もしかしたら、何か危ないこともあるかもしれない。

 そんなことを、そんなことを僕は自分で自己弁護しだす。


「……」


 そして、僕は駆け足でとっくの前に己の視界からは消えていた静音の後を追いかけていくのだった。

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