屋上
昼休憩の時間。
お昼を一緒に食べようと誘ってくれた静音と共に、僕は屋上の方へと上がってきていた。
「何で屋上の方に上がれるの?」
僕の記憶が正しければ、屋上は立ち入り禁止のはずだったと思うんだけど。
「私、生徒会に在籍しているもの。屋上に入るための鍵を貰えるの」
「……なんでぇ?」
生徒会に在籍しているからと言って、普通は屋上の鍵なんてもらえないでしょ。屋上に入ることが出来ないのには、それ相応の理由があるはずなんだから。
どんな交渉を先生たちにすれば、そんなことが可能になるの?
「僕、屋上なんて初めて来た」
まさか、自分が屋上の方にやってくる日が来るとは思っていなかった。
「良かったわね。さっ、細かいことは気にせず行きましょう。ここが良いわね」
屋上を見渡して唖然としている僕に対して、何処までも平然としている静音が屋上のふちの方に近づいていく。背もたれとして柵があるそこは良い感じに段差もあって、そこが椅子として使えそうなところだった。
「ほら、早く隣に来なさい」
「……まぁ、そうだね」
しぶしぶ、静音の言葉に頷いた僕は彼女の方に近づいていく。
「屋上でご飯を食べるのがちょっと怖いんだけど……」
屋上から落ちたらどうなるのか……考えると、ちょっとだけ身がすくむ。
「……こんなことで何で貴方がビビっているのよ。そんなことより、早く食べましょ」
「まっ、そうだね」
切り替えよう。
静音の言葉に頷いた僕はお弁当箱を取り出し、その中を上げる。
僕のお弁当はよくある平凡な二段弁当だ。下にご飯、上にはおかずだ。おかずとしては自作したからあげに卵焼き、たこさんウィンナーなど、しっかりとしたラインナップだと思う。
男が自作したお弁当箱にしては、しっかりとしているはずだ。
「……えっ?」
そんなお弁当箱を開けた僕の横で、同じく持ってきていたお弁当を箱を開けた静音の方を見て、思わず驚愕の声を漏らす。
「……それだけ?」
静音が開けたお弁当箱。そこに入っていたのはただの白米に、包装された味付け海苔だけが入っていた。
「……むしろ、貴方がおかしいわ。いつ、そんなしっかりとしたお弁当を作ったのよ」
「静音が化粧水を塗ったり、身だしなみを整えて髪のセットだったりをやっている時間にだよ」
「そんな立派なお弁当を作れるだけの時間はなかったはずよ」
「準備は昨日のうちからしてあったから。朝、作ったのなんて卵焼きとウィンナーくらいだよ」
昨日の夜のうちに次の日のを仕込む。これは鉄板。
「私、その二人を作るのに少なくとも一時間はかかるわ。いや。どっちも炭になって食べられなくなるのが落ちだわ」
「それは静音がおかしいんだよ」
ウィンナーを焼くが出来ないとか、それはもう料理が下手という次元じゃなくて、超能力とかの方だと思う。手からマグマ出せるじゃん。
「でも、ご飯は炊けているんでしょ?」
「パックご飯よ。炊いたら、何故か変な味になるわレンチンなら出来るわ」
「……それで誇られても」
レンチンが出来なかったらいよいよだよ。もうそっちは機械音痴の域だ。
「そんなお弁当じゃ普通に栄養素が心配だよ……これから、静音の分も作ろうか?」
「えっ!?良いの!?」
「うん。別に一人分も、二人分もそこまでの差はないし。というか、いつも、それ?」
そんな質素なお弁当を食べているようなイメージは僕になかった。
高校生になって、一緒にご飯を食べたりなんていう機会もなく、あまり気にもしていなかったけど……。
「いや、割と菓子パンとかが多いんだけど……輝夜が作ってくれるなら、それをお願いするわ」
「んっ。了解。菓子パンも良くないしね」
お昼ご飯が菓子パンだけ、ってのも健康に良くないでしょ。
ちゃんと健康的な食事を摂らないとね。
「とりあえず、今日のところは僕のおかずを一部、上げるよ。思ったよりも朝食のおにぎりを作りすぎて、まだお腹いっぱいなところもあるし」
「ふふっ、ありがと。確かに、おにぎりは調子に乗って作りすぎたわね」
「それにしても、なんで白米すら美味しく炊けないの?というか、変な味って何?」
もうお米を洗うこともなく決められた量を入れるだけでも全然美味しいお米にはなるでしょ。
「わからないよ……ちゃんと、手順に沿ってやっているはずなのに。綺麗になるよう、ちょっといい洗剤を入れて洗ったりもしているのよ?」
「はっ?……えっ?はぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
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