朝。

 それは睡魔に微睡み、布団の元でゆったりする至福の時間。


「うぅ……ん」


 布団に包まり、惰眠を浪費していれば、遅刻ギリギリになってしまうが……この布団の誘惑から中々逃れられない。

 僕は布団の中でそんなことを考えながら、ダラダラと過ごし続ける。


「起きなさい」


「ぐぇっ!?」


 なんて中で、いきなり僕の腹部へと強い衝撃が走り、思わず悲鳴を自分の口から漏らす。


「……何しているのさ」


 その衝撃により、強引な形で起こされた僕が目を開けたことで映るのは自分の腹部に乗っている静音だ。


「朝よ。起きなさい」


「……いい加減、その起こし方辞めない?」


 前から、というか小学生の時から静音が僕を起こしに来るときは腹部にのしかかって起こしに来る。

 あまりにも暴力的すぎるし……何より、高校生の男女がやることでもないと思う。

 ちなみに、何故、昨日の夜には自分の家に帰っているはずの静音が、家の玄関を開けなくとも僕の寝室にいることについては考える必要がない。

 静音に関しては僕の家の合鍵を持っているので。


「何?私のような完璧美少女に踏まれ、見降ろされながら起きるのよ?ご褒美でしょ?」


「それ、自分で言う?」


「事実だもの」


「……だとしてもねぇ。それで?なんで、今日は起こしに来たの?」


 静音が僕を起こしに来ることは稀だ。

 基本的に、僕が惰眠を貪っていることを知りながら、それを許してくれている……今日、特に何もなかったよね?


「朝ごはんを食べましょ。私が作ったわ」


 その疑問に対する答え。


「えっ……?静音が?」

 

 それは僕にとって、信じられないものだった。

 十年以上の付き合いがある幼馴染。

 そんな僕であっても、初めて聞くような単語に目を見開く。あの、静音が料理を?……なんで、そんな変化がァ。


「何よ。その反応……わ、私だって料理くらい……さぁ、降りてきて」


「……う、うん」


 信じられない。

 そんな気持ちを、持っている僕は静音に手を引かれるような形で寝室からリビングの方に向かって行く。


「……ありゃ?」


 そして、そのリビングで僕が見たのはダイニングテーブルに載せられている白米がよそわれただけのご飯茶碗が二つと、その隣に置かれた味付け海苔だけだった。

 決して、そこにあるのは朝ごはんを作った、とは言えないラインナップだ。


「……どういう状況?」


 そして、キッチンの方に視線を向けてみれば、ぐちゃぐちゃになった様相が見えた。


「つ、作れなかったわ……」


 そんな中を疑問と共に眺め、最後に静音の方に視線を向けてみれば、それで確認できるのは恥ずかしそうに頬を赤らめながら、悔しそうに下唇を噛んで視線を伏せている静音の姿だ。


「ごめんなさい。で、でも……使ったキッチンの掃除はちゃんとするわ。食材は安心して頂戴。自腹で買ってきたものだから」


 これだけ見ればわかる。

 まだ、静音はまるで料理が出来ていない。


「ふふっ……僕の知っている静音通りだ」


「……むぅ」


「それじゃあ、この白米と海苔を使っておにぎりでも作ろうか。静音、手を濡らして?一緒に握ろう」


「……え、えぇ!」


 静音が変わっていなかった。

 それに対して、思わず安堵してしまった僕はそれに気づかないようにしながら、白米が入った二つの茶碗を持ち上げるのだった。

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