嫉妬

「ただいま」


 僕の所在地は千葉県。

 一時間半程度であきばから家に帰って来れる位置で、夜ご飯も食べずに帰ってきた中で割と早くに家の方へと帰って来れることが出来た。


「誰?」


「うおっ!?」


 なんてことを考えながら、真っ暗な自分の家の玄関に入った瞬間に受けた衝撃と短い言葉に僕は驚きの声を漏らす。


「し、静音……?」


 真っ暗な玄関。

 そこで僕は静音へと抱き着かれていた。

 えっ……?この、この暗い中で、僕のことを待っていたの……?

 ど、どんなドッキリ?


「女の匂いがするわ。何処に行っていたの?」


「へぁっ」


 僕と静音の身長関係で言えば、静音の方がちょっとだけ高い。

 すぐ至近距離で、静音から僅かに見降ろされているという状況に対して、僕はちょっとばかり、いやガッツリ動揺を誘われて変な声を漏らす。


「……どうしたの?答えられない?」


「い、いや……普通にネッ友とあきばに行ってきたんだよ。行きたかったイベントもあって」


「女?」


「う、うん。そうだよ……?というか、前にも聞かれて話したことなかったっけ?」


「……へぇー。それで学校をサボったの?」


「休んだ、って言って欲しいなぁ?少し、休むくらいいいでしょ?会社だって有給とかあるのだし。どうせ、成績的には問題ないのだから。もうちょっとフラットに休んでもいいと思うんだよね。学校」


「サボりよ。サボり。あの先生は怒っていたわよ?きっと、あなたは明日、多くの仕事を押し付けられるでしょうね?」


「うぐっ……そうなんだよなぁ。明日、学校に行くのが憂鬱だよ……」


 憂鬱。

 その言葉を己の口から発して、僕はそっと静音から視線を外す。

 それにしても、静音は……いや、いいや。


「ちょいっ」


 静音から視線を外した僕はひらりと身のこなし一つで自分へと抱き着いていた彼女の元から離れる。


「ちょっとっ!」


「ひょいっ。捕まらないよ」


 そして、僕は伸ばされた静音の手をひらりと避ける。


「今日もお父さんとお母さん、仕事が長引いて家に帰ってきてないの?なら、ごめんね?待たせて。今から夕食作るね」


 静音の両親は共働きかつ忙しい人たちなので、基本的には家へと帰って来れない。

 そんな中で、両親が海外出張に行っていて一人暮らし歴が高校生にして長く、料理も作れる僕の元に静音は夕食を食べにくる頻度がかなり高かった。

 ちなみに、静音はまるで料理が作れない。ダークマターをリアルに創造する人だ。


「……違う、違うわッ!」


「ん?」


「わ、私が、言いたい……のはァっ」


「何?どうしたの……?」


「……か、かの……うぅ。何でもないわ……私、重い女じゃないもの」


「……そう?」


 後半、あまり聞き取れなかった僕は若干反応に困りながら、とりあえず返答する。

 割と、あるよね。こういう時。

 普通の人は相手の言っていることがあまり聞こえなかったとき、どうするんだろうか?僕は割と流してしまう……。


「夕食は何がいい?買い物いったばかりだから、割と何でも作れると思うよ?」


「……ハンバーグが良いわ」


「わかった。了解」


 静音の言葉に頷いた僕はハンバーグを作るため、キッチンの方に向かうのだった。

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