ファミレス

「失恋したぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっ!」


 自分の幼馴染であり、想い人でもあった静音に彼氏がいたことを知った後、僕は高校から少し離れたところにあるファミレスにやってきて魂の叫びをあげていた。


「……えっ?そうなの?」


 そんな僕の前には、自分の魂の叫び声を聞いてくれる人が一人だけいた。

 金髪に染められたショートの髪にバチバチに開けられた幾つものピアスが印象に残るかなり顔も可愛く、体つきもかなり目を引く感じの美少女。

 そんな彼女の名前は常葉ときわ環奈かんな。中学生くらいの頃から付き合いのあるネッ友だ。

 元々はネッ友だったのだが、とあるゲームのリアイベをきっかけに割とリアルでも会うようになり、実は互いに家が近くて高校まで同じということを知ってからはリアルでも、かなり会うようになったもうネッ友と呼べるかどうか怪しいところまできてしまったネッ友である。

 まぁ、同じ高校であるとはいえ、環奈は引きこもりで高校に来ていなかったけど。

 ちなみに環奈はギャルでしかない見た目に反して、引きこもりのゲームアニメオタクという属性持ちだ。

 オタクに優しいどころか、自分もオタクというギャルこそが環奈なのだ。


「……静音に彼氏いた」


 そんな彼女へと僕は何があったかを簡潔に伝える。


「えっ!?うそっ!?」


「……ほんと。ほげぇぇぇぇぇ」


 僕はファミレスで顔を突っ伏せながら、口からこの世のものとは思えない怨嗟の声を漏らす。


「えぇ……静音ちゃん。彼女いたんだぁ」


「そうだよ」


「びっくりだわ……」


「……せめて、告白して爆死したかったぁ」


 静音に彼氏がいたことを知ってすぐの時は告白しなくてよかった、と思った……だけど、やっぱり。

 こんな、盗み聞きで終わってしまう。それはやっぱり嫌だった。

 自分の十年に渡る恋がこんな形で終わるのは。


「モー!昨日、告白しようとしていたところだったのにぃ!

 

 いや、告白しようと思ったタイミングは数え切れんほどあったけど!


「そ、そうだったんだ……」


「……今からでも告白してこようかな。振られるだろうけど」

 

 散るなら派手に。

 そんな思いがあった。


「……鬼気まずくなりそう。あそこまで幼馴染として仲良いと。というか、あれだけ一緒にいて彼氏が他にいるって、そもそもとして男として見られていなかったのかしら」


「言わないでぇ!」


 うっさいよぉ。


「……付き合うと思っていたわ。勝手に」


「……」


 ……。

 …………。

 正直に言って、僕もちょっと期待していたしぃ、高校生になってもまだずっと仲いいし、向こうには彼氏なんて出来ないと思っていた。うん。付き合えると思っていたよ?素直にね。

 ……告白はできんかったけど。


「何時頃からおったんやろ」


 これであれだなぁ……高校生になってから!とかだと嫌だなぁ。

 もじもじしている間に、僕の方が先に好きだったを食らうのは。

 せめて、小学生からいて、もう希望なんて端からなかったと完全に打ち砕いて欲しい。

 いや、つか、高校生からでも彼氏が出来たってことはもう向こうは僕好きじゃないんだし、どっちでも変わらんわ。

 

「……顔が悪いか?」


「……い、いや、そんなことはなくカッコいいと思うけど」


「そぉ?それじゃあ、僕には何が足らへんかったやろ」


「……勇気?」


「ぐはっ!?」


 辞めて欲しい。

 せめて顔……生まれながらのものだから仕方ないという逃げ道を用意してくれ。

 勇気が足らんかったはちょっとダメージが深い。

 完全に僕が悪いが……お世辞でもカッコいいという言葉で喜んだ後にこれだよ。確実に心を抉ってくる。


「うえぇぇぇぇ、もう立ち直れないぃ。引きこもるぅ……」


「ちゃんと引きこもりしている私を前にして言うことか?そういうところじゃないか?」


「ほげっ……はぁー、つら」


 僕は自分の前に置かれている結露して水滴のついたグラスを掴み、中に入っていたメロンソーダを一気飲みする。


「……はぁー」


 喉を傷めつけて自分を罰してくれるよう望んだ炭酸は既にこのメロンソーダからは抜け落ちていた。


「それじゃあ、私とデートする?」


「ん?」


「失恋を忘れるためには何かするのが一番よ……だから、私とのデート」


「えっ?」


「……ほ、ほ、ほらっ!私の好きなアニメの特別売り場が出来るのよ!ゲームのコラボカフェもあるし!」


「……それが目的じゃん」


 失恋して傷心状態の僕を便利な荷物持ちにしないでよ……。

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