第17話 カルチャーショック

「リーヴァ殿下、お久しぶりです」

「久しぶりと言うほどじゃないけどね。うん、久しぶり。リネル君から訪ねてくれて嬉しいよ」


 リーヴァと初めて会った部屋に行けば、紅茶を飲んでいたリーヴァに出迎えられた。


「でも、私に会いに来てよかったの?」

「え? どういうことでしょうか」

「だって、リィナが怒らない? リネル君のこと、好きになっちゃったみたいだし」

「……ああ、なるほど。それなら大丈夫だと思いますよ」


 そりゃそうか。

 リーヴァからしてみれば、リィナが俺と婚約することを決めたのはリィナが俺を好きになったから以外の理由はないはずだ。そうだとすれば我が儘姫なリィナが自身の母と俺が1対1で話をしていることを良く思わない、そんな風に考えてもおかしくはない。

 その実まったくそんなことはないのでそれは杞憂なわけだが。


「そう? それならいいわ。それで、どんな話がしたいのかしら? 何でも聞いてちょうだい」

「ありがとうございます。じゃあまず、個人的に気になっていたことからなんですけど、神林弓しんりんきゅうってありますよね?」


 最初にリィナの話をするのは少し気が引けて、俺は本筋からずれた話から入った。


「ええ、あるわよ。伝説の神器、神林弓。エルフに古来から伝わる弓で、選ばれし者を待ち続けているって話ね。それがどうかしたの?」

「もしよかったら、見せてもらえないかと思って。個人的に興味があるんです」

「へぇ、そうなんだ。でも、外の世界にいたリネル君なら当然かもね。戦うことも多かっただろうし、強い武器には興味あるよね。うん、もちろんいいよ。リネル君なら変な事はしないって分かるもんね」

「え、そんなあっさり、いいんですか?」

「うん。別に隠してるわけじゃないしね」


 結構あっさり了承をもらってしまった。まあそれもそうか。神器はすべて、選ばれし者以外は触る事すら許されないもの。選ばれていない者が使っても何の効力もない平凡な武器になる。


 そうは言っても国宝レベルの逸品なので、これはエルフの仲間想いな部分があるからこそと考えることも出来るか。部外者にはそう簡単に見せないだろうし。


 しかしどうしよう。神林弓で場を繋ごうと思っていただけに、ここまで早く話が終わってしまうと困るのは俺だった。助けを求めようとレイカを見たが、ちょうど紅茶の支度をしているところだった。

 というかそもそもレイカに視線を送ったところでどうしようもないんだけど。


「話しはこれだけで終わり? もしよかったら、いろいろお話しして欲しいんだけど」

「あ、ああいえ、他にもありますよ。……えっと、この国の王様って、結局何をするんでしょうか。俺はいずれなるんでしょうけど、まったく見当もつかなくて」

「ああ、そのこと? ふふっ、安心して。私も最初はまったく分からなかったわ。でも、私よりもずっとシンラ・プライドやシンラ・カクについて詳しい人がたくさんいて、たくさん助けてもらえたの。リネル君の時も、きっとそうなると思うわ。互いに助け合えばいいんだもの、心配することは何もないわよ」


 そう答えて、リーヴァは紅茶に口を付けた。


 ……いや、また話が途切れたんですけど?

 どうしよう全然会話が続かない。これって俺の会話力が壊滅的ってことなのか? いや、そんなことはないと思いたい。これは毎度的確過ぎる答えを返してくるリーヴァがいけないのだ。

 今の話だって、一見聞けることがたくさんある。だって実質的には何も教えてくれなかったのだから。だが、リーヴァ自身もそうだったと言われてしまえば、それが自然なことなんだろうと納得せざるを得ない。

 実際、リーヴァと違って俺にはリィナもいる。リーヴァに聞かずとも他に聞ける相手がいて、その上直接的に手伝ってくれる人もいる。


 そう考えると、この前あいさつ回りに来た人たちはその事前準備をしていたわけだ。いつか手伝うことになる主君の顔くらい拝んでおこう、って話だったことになるが、そんな常識を俺は知らない。

 というか、婚約時点であんな扱いだったことに疑問を覚えればよかった。次期王様になるかどうかなんて婚約時点では不明瞭なはずなのに、こうも持て囃されるのは何でだろう、と。

 結局のところ王がどれだけダメダメでも自分たちが支えるから大丈夫ですよって、そう言いたかったんだろう。


 なるほどこれがエルフか、って一言で納得するにはもう少し時間が必要そうだった。


「もう終わりかしら? 私はもう少し時間があるから、良かったらお話ししていたいのだけど」

「あー、えっと。自分からはまあ、これくらいかな、と」


 リィナのことも聞いておきたかったが、正直今は頭がいっぱいいっぱいだ。整理が追い付かない。

 こんなに早く予定を開けてもらえるのならまた今度でもいいかと思い、取り合えずこの場を濁すことに専念する。


「それじゃあ、私から少しいかしら」

「あ、もちろん。なんでも聞いてください」


 なんて聞きながら、席に着いてから3杯目の紅茶を飲み干す。いや、というか俺飲みすぎだな。ほとんど無意識に飲んでいるのだが、気付けばなくなっている。特段美味しいってわけではないが、どうにもどんどん手が伸びるんだよな。

 前もこんなことあった気がするけど、俺、動揺すると喉が渇きやすくなるのかな。

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