第2話 心に誓う
バスに乗り奥側の席に座り、揺れる体で昨日の出来事を思い出す。
「笑ったら付き合うって、なんやそれ」
独り言が漏れる。俺の感性は間違っていないよな。
もしかして最近の高校生はこんな簡単に付き合うとか言うのか?
俺が世間を知らないだけかもしれない。
いやそんなわけないだろ。
バスはバス停で止まり、客が乗車してくる。
ふと、乗客口に目を向ける。
容姿端麗以外の言葉似合わない桜が乗ってくる。
髪を綺麗に整っていて、身なりも完璧。
非の打ち所がない。
席は結構空いてるはずだよな。
桜は俺の方を見て歩いてくる、そして、俺の横に座る。
「前の席空いてると思うけど?」
「そうね」
そう言い、桜はイヤホンを着けて本を読み始める。
数分後イヤホンを外し、俺の顔を見つめる。
「どうした?」
「東也って勉強できる?」
俺の名前覚えているのかよ。なんか、名前とか覚えなさそうなイメージあったのに意外だな。
「できると思うよ」
「そうなのね」
それだけ言い、またイヤホンを着けて本を読み始める。
いや、勉強教えて、とかじゃないのかよ。
俺だけが期待していたみたいじゃん。少し恥ずかしくなる。バレないように窓の方に顔を向ける。
自然と口角が上がっているのが分かる。
自分自身を見て思う、俺の笑顔キモくね?
「ほら、今日のおすすめな本だよ」
「ありがとう」
お昼休み、俺たちしか居ない教室で俺は桜に本を渡していた。
「これ、あげるよ」
俺に向かって手を伸ばし、チョコを渡してくる。
「いいの?」
「うん」
「サンキュー」
「今日って放課後予定ある?」
桜は弁当を食べながら言う。
「いや、毎日暇」
「そう、それなら……」
「東也っているか?」
ドアの前に立っている女子生徒が俺の名前を呼ぶ。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「うん」
どこか寂しそうな顔をしていた。
けど俺は、どうしたらいいのか分からずドアの前に立っている女子生徒の方に歩く。
「あのー俺に何の用ですか?」
「まぁ、一言で言うなら生徒会に入ってもらう」
「嫌です」
「何故だ? 生徒会に入れば評価が上がるのは知ってるでしょ?」
「俺にはやらなきゃいけないことがあるんですよ」
「ほう、それは生徒会に入るより利益になるのか?」
「はい」
「そうか、気が向いたら生徒会に来てくれいつでも歓迎するよ」
「いくら誘っても断りますよ」
「次は入るかもな」
そう言い、彼女は歩いていく。
彼女の名は、藤波奏。俺を毎回生徒会に誘ってくる。
なぜ誘ってくるかというと、どうやらこの高校で一番頭が良いらしい。絶対嘘だと思うがな。
俺は自分の席に戻る。さっき桜は何か俺の言おうとしていたよな。
けど、桜はもう眠りについていた。
寝るの好きだな桜って。
俺は静かに本を読み始める。
俺は笑顔にさせたいんだ。本の内容と関係ない考えが浮かぶ。
過去のことを思い出しながら俺も本の世界に入る。
「それで、えーと」
放課後、教室には俺と桜しか居なかった。
「私に勉強を教えて欲しい」
俺の方に体を向け、座ったままお辞儀をする。
綺麗な髪が下に落ちる。
「あの、顔上げて教えるからさ」
「ありがとう」
そう言い、俺の机に桜の机をくっつける。
「では、ここから教えて」
近くないか? 体を斜めにして俺の前に入ってくる。 髪が俺の太ももを刺す。
「桜の席で教科書を開いた方がいいと思うけどな」
「いや、このままでいいかな」
そう言い、俺の机に教科書を開き続ける。
「えーと、まずここは」
俺は教え始める。長い勉強が始まる予感がしたが数分後事件は起こる。
「疲れた」
勉強を始めてから五分後、桜は机に伏せる。
「まだ、五分しか経ってないよ」
「ちがうよ、五分もだよ」
何故か顔を膨らませて言う。
なんだよその仕草、自分の可愛さを理解している。
けど、絶対に笑うことはない。笑顔が一番似合うタイプだろそう思いながら俺は桜を眺める。
そして、机に伏せ、俺の方に顔を向けながら眠り始める。
幸せそうな顔で眠っている桜を俺はただ静かに眺める。
どうして笑うことをしなくなったんだ。
幸せそうな顔なのにどこか寂しそうで絶望している顔だ。
桜は、何故か眠っているはずなのに、目からは涙を流し始める。
そして俺は考える、桜の過去は俺の想像しているより大変だと。
絶対に笑顔にしてみせると。
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