隣の彼女が笑顔になるまで

@sink2525

第1話 笑わない彼女

 春は嫌いだ、始まりの季節、出会いの季節とかよく言うけど全部嘘だ。だって別れの季節だろ絶対に。

 今年の春から二年生になった俺は絶望していた。新しくなったクラスには俺の友達は誰も居なかった。

 窓から見える景色を眺めながら考える、大体季節にそんな意味なんてないだろ、ただの季節だぞ。歪んだ考えを浮かぶ。

 一週間経ったクラスはもう輪が出来ていた。

 ふん、くだらない。

 俺はゆっくりと本を読み始める。

 本だけは俺を救ってくれる感じがする。どんな時も一緒に居てくれる、まあ物だからそれもそうか。

 「ねえ、何の本を読んでるの?」

 凜とした姿で俺のことを見つめながら言う。

 この人の名前ってなんだっけ。

「ねえ、何の本を読んでるの?」

「えーと、これだよ」

 俺はブックカバーを外して彼女に見せる。

「あ、その本いいよね」

「だよね、この本いいよな」

「そうね」

 それだけ、言い彼女は俺のことを見つめ続ける。

「何だよ?」

「その本私に貸してくれない?」

「あー別に良いよ」

 俺は彼女の本を渡す。

 彼女の手はとても冷たかった。なんでこんなに冷たいんだ?

「ありがとう」

 顔色を変えずにただ、俺の目を見て言う。

「おう」

 彼女は本を読み始める。どこか悲しそうに辛そうな顔をしながら。

 俺はまた窓から見える景色を眺める。

 今日はどこか曇っているな。

 学校はやっぱり憂鬱だ。

 そう思い机に伏せる。



「ここの問題解ける人?」

 先生が俺たちを見て言う。

 この先生はいつも俺たちに意地悪をする。絶対に解けない問題を誰かに当て恥をかかすようにしている。

 こんなやつが教師になれるの終わってるな。

 俺は窓側の席で奥側だから一番目立つことない席だ、だから安心ではある。

 そして先生は俺の方を見る。

 先生と目が合う。

「では、桜さん、この問題できるかな?」

 俺隣の席の人が立つ。

 そうかこの人、新崎桜っていう名前だっけ。

「え、っと」

 教室に居る生徒たちは彼女を見る。

「え、えっと」

 しどろもどろになる彼女。これが先生のしたいことなのかよ。少し苛立つ。

 俺は立ち上がる。絶対俺の性に合ってない、けど可哀そうに思えて心が痛かった。

「この答えは〇〇です」

「ふん、よくできるじゃないか、正解だ」

 教師はどこか怒っている様子だった。どんだけ腐ってるんだよ。

 俺たちは椅子に座る。

 数分後桜は俺に紙を渡してくる。

 俺は紙を受け取り、書かれている内容を読む。

『さっきは、ありがとう』

 たったそれだけだった。言葉で言えばいいのにと思ったが桜の方を見てその考えが消えた。

 桜はいつの間にか静かに寝ていた。

 俺にだけ寝顔が見えるように寝ていた。

 わざとなのか? それともたまたまなのか。

 どっちにせよ、この寝顔が見えたなら良いか。

 ちょっとだけ楽しかった授業を終え、俺たちは帰る準備をする。

 「ねえ、明日も本持ってきて頂戴」

 俺の顔を見て真剣表情で言う。

 「いいよ、持ってくるよ」

「ありがとう、でもどうしてそんなに優しいの?」

「優しいか? ただお願いされたらやるだけだろ」

「そうなの?」

 不思議そうな顔をする。

「そうだと思うが」

「そういうもんなんだ」

「一個質問していいか?」

「うん」

「最後に笑ったのっていつ?」

 俺は単純に気になった。この一週間で彼女は一回も笑っていない。それにいつも暗そうな顔をしていて、世界に絶望しているような顔をしている。

「2年前」

「2年前?」

「うん、2年前」

「じゃさあ、俺が一年間で笑顔にさしてやるよ」

 自分でも言っていることが理解できない。ただ、彼女を救いたい気持ちが溢れていた。彼女の笑っている姿を見たいと思ってしまった。

「じゃあ、私が笑ったら付き合ってあげるよ」

「へ?」

 そして、これから桜を笑顔にする物語が始まる。笑顔の花束を贈りながら。

 

 

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