第13話 罠
「おい、何するんだ獅熊!」
雁馬は本気で叫んだ。ゲームを取り上げられた子供のように、獅熊からリモコンを奪おうとする。獅熊はそれを避け、持った手を高く上げた。雁馬には届かない。しかし、雁馬が立ち上がって、必死に手を伸ばしたり、「返せ!」などと言って飛んだりしてくるので、間近で見ているとそれに参加している自分が恥ずかしくなって渡してしまった。代わりに、獅熊は電源プラグを引っこ抜いた。
リモコンが戻ってきてほっと安堵した雁馬だったが、電源プラグが抜かれたのを見ると、また怒った。
「なんだ獅熊。喧嘩売ってんのか、上等だ」
実際、腕まくりをし始めたから、本気だったに違いない。
「もう、黙れ」
獅熊は言う。心の中にある濃密なため息のガスを、シュ、と少し抜いたようだった。まだ獅熊の中にあるのは、こんなものの比ではない。
「何かの罠だこれは。お前もおかしいと思わないか。俺たちにしては、簡単すぎる仕事だ」
獅熊は雁馬にも分かることを言った。こいつはおそらく鮫島ではない、とか、ここの本当の住人は俺の派遣先の上司で、そいつが業者の可能性もある、とか、どう説明しても無理なものは言わないようにした。
「ああ、簡単だな、俺たちにしては。でもそれが俺の娯楽を奪う理由にはならねえぞ獅熊」
ああ! と獅熊は頭を抱えたい思いだった。
「罠だって言ってるんだ。何かが起こる前に早く帰るぞ」
そう言っても雁馬は不服な表情で、聞き入れないので、獅熊はもう言葉を話すのをあきらめた。
「おい、何するんだ獅熊! 離せ」
手際よく腕、脚を絡ませ、動けないようにする。このまま文字通り、雁馬を持って帰ろうということだ。
「黙ってろ。ここは危険だから帰るんだ。分かったら離してやる」
すぐさま分かった! 分かった! と連呼する雁馬に、獅熊は顔をしかめた。パッと離すとそのまま地面に落下して「痛ってえな! 何するんだ」と喚いた。獅熊は無視した。
「何が危ないんだっての」
ぶつぶつ言っているが、一応は聞き入れたのか、獅熊に続いて雁馬も部屋を出ようとした。獅熊は部屋を出て、廊下を歩き始める。
そのときだ。
獅熊の巨体が、ガクンと膝をついたのは。
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