Chapter 1-3 座学終了・受注・移動
「…と、概ねこういう内容となります」
マコトの後ろのホワイトボードに終了と表示され、座学が終わった。
「お疲れさまでした。一旦休憩にしましょう。
質問等はその後に行います。
休憩についてですが、此処の会議室は手前の方にあったかと思います。
奥の方へ行くとコミュニティーゾーンやトイレがあり、コミュニティーゾーンには飲み物や軽食が置かれています。
これから仕事を引き受けていただき、移動を行いますので、軽食も頂いておいてください。では、30分後に」
それだけ言い残し、会議室から出て行った。
49地区に着いてからは休憩も食事も無かったので、少しお腹が減った様な感じもする。
会議室を出て用を済ませ、コミュニティーゾーンへと入った。
中は誰もおらず、自動販売機と軽食――と言ってもスティック状の食べ物だけだが――の自動販売機が並んでおりそれぞれから飲食物を選択し椅子に座った。
座学について思い返すと、ハンター協会の成り立ち以外は入会した後の
内容だったような気もする。
そもそも入会試験を受けないと入れないはずなのになんで先に座学を行ったのか分からない。
いや、入会試験時に仕事を実際にやると言っているのでそのためなのだろうか?
軽食を取りながらそんなことを考えていると、5分前になっていた。
飲み物を飲み干し、空き容器を捨てた後、会議室へと戻っていった。
会議室へ戻ると初め会議室に入って来た時と同じようにマコトさんが立っていた。
「時間丁度ですね、お座りください」
着席を促されたので先程と同じ席に座った。
「さて、続きを始めます。質疑応答ですね。何かありますか?」
先程、休憩中に考えていたことはあれでいいとして、報酬についてもうちょっと聞いておこうかと思う。
「報酬についてですが、どれぐらいになるのでしょうか?お仕事にも寄るとのことですが、目安みたいなものがあれば聞きたいです」
「そうですね…。どれぐらいで説明したらいいか悩むところですが、ランクが低いと糊口をしのぐぐらいとなり、ランクB辺りだと49地区高級街エリアに住むぐらいは余裕があるようになります」
「糊口をしのぐ…?」
「昨今、あまり聞く言葉ではありませんね。
なんとか暮らしていくことは出来るが、かなり頑張らないといけません」
「つまり、ランクを上げないと生活は厳しいままと?」
「そうなります。ちなみに、各地区共通となりますが、ランクCまではハン
ター協会から宿泊施設が提供されますのでそちらを活用いただけますね」
そのために一人で仕事を見つけて生活をして行かなくてはいけないんだけど、
ハンターの仕事を行えばランクCまでは何とかなるのかと考える。
問題は、ランクCまではどれぐらいかかるのだろうか?
「ランクCまではどれぐらいかかるのでしょう?」
「最短3ヶ月といったところでしょうか。
仕事を上手く組めばとなりますが。
…ヘセルさんは施設を出た後は何処かに住まいを設けないといけないのであれば、当面ハンター協会側の宿泊施設を借りるのもいいでしょう」
「当面かまたは、ずっと借りれるのですか?」
「仕事を受けている間は借りれます。
仕事を受け無くなって1週間立つと追い出されるのでそこは注意が必要です。
怪我などをして動けない状態で無ければ、ですが」
「なるほど…」
働かない人間には居場所は無くなるという事なのだろうか。
しかしその場合ランクが低い人は保護期間に入ると言っていたので別のところに連れられるのかもしれないと思いその旨で質問をした。
「…ええ、そうなります。
先の説明の通り、ライセンスカードの回収および保護期間に入り監察か、保護用の施設へ移動していただく運びとなります」
「結構手厚いのですね?」
「ええ、魔力持ちは一般人と比べても、立場が弱いため、協会に属している間は手厚く対応いたします」
概ね理解したので「分かりました」と返事をした。
「ちなみに、宿泊施設はランクCまでは無料で提供、それから上になると一つ広い部屋になりますが有料となります。
ランクCまで行くと生活には困らないようになりますので、何処かで部屋を借りたりした方が手っ取り速くなります」
先の説明も合わせると、ランクCまで行くと一人前という事になるのだろう。
そこまでいけば、一人でも生活することができるというわけなんだろう、とぼんやりとだが頭の中で考えがまとまって来たような気もした。
こちらが納得したようにとらえたのであろうマコトさんは「他に質問はありませんか?」と聞いてきた。
私は休憩中にぼんやりと考えていた事を念のため聞いてみたが、
「その認識であっています。
実際に先にやる必要性はありませんが、殆どの方は入会出来ますので後でも先でもどちらで行ってもよいのではないか、という考えのもと、先に行いました」とのことだ。
私は確認したいことはもうないため、「分かりました、ありがとうございます。他に質問はありません」と答えた。
「座学は以上で終わります。
次に実際に仕事をしていただきますが、諸注意について説明いたします」
マコトさんはタブレットを操作し画面に諸注意事項を表示した。
「49地区洋上フロートでのみの内容になり、49地区島国や他地区では適用されませんのでその旨注意してください」
諸注意事項は以下の通りである。
・魔力持ちは身体強化は使用可能
・1メートル以上の魔力出力の攻撃や魔力を飛ばす行為は禁止
諸注意事項は2点だけとなるが、2点目は聞き覚えがない。
ハンター協会の施設で学ぶ魔力に関することは身体強化のみで、魔力を出したり飛ばしたりは全く知らない。
「えっと、2点目って、なんですか?」
全く分からないためそのまま質問をした。
「そのままの意味となります。この2つは魔力運用の応用になります」
「応用、ですか……」
「ええ。身体強化を出来る様になれば後はやり方を覚えれば誰でも出来る様になります。出力はこのように手の先に集中し、一転突破の火力を作りだす。そのような事に使用します」
マコトさんの右手に魔力が集中し30センチ程度のブレード状に成った。
「次に魔力を飛ばす、ですが…」
右手の手の平を上に向け、小さい球状に魔力が形成された。
「このように出力をし、そのまま相手にぶつけたりできます。
この両方共、ある程度魔力を圧縮状態にしているため建造物を破壊できます。
ですので、2点目の通りここでは使用禁止としております」
ふっと球状の魔力を握り、消した。
「応用に関しては他にございますが、この2点のみ殺傷・破壊能力があるため禁止となります。
ちなみに、ある程度練習をすれば出来る様にはなりますので入会後にでもお教えいたします」
「そう、なんですね。
殺傷や破壊能力と言ってましたけど、魔力持ち同士だとどうなるんですか?」
「魔力持ちでもそのまま当たると軽傷かあるいは重症になりますね。
一般人も同様です。
魔力持ちは身体強化で魔力で全身を包むため、ある程度は緩和されます。
しかし、魔力密度が高い攻撃だとダメージが入るので注意が必要です」
「なるほど。知らない事ばかりでびっくりでしました」
施設では身体強化しかなくこの辺りの話は全く無かった。もしかしたら触れる機会もあったのではないかとは思うが……思い出してみたが無かったはずだ。
「でも、施設ではなんで教えてくれなかったんですか?」
「疑問に思われるのも仕方がありません。
全員がハンター協会に入会するわけではなく、一般人たちと一緒に仕事をされる方もおられます。その際、攻撃手段が有ったら危ないでしょう?」
その返答に私は頷いた。
その通りかもしれない。
言い合いになってそのまま相手と喧嘩になり、危害を加えてしまうかもしれない。
「それに、施設の子供が知った場合、悪戯に使う可能性もあるためですね。
過去にちょっとだけ教えていた子もいましたが、施設がかなりの頻度で壊されまして」
マコトさんは眼鏡の蔓を触りながら少し言いにくそうに言った。
私はそういう想定もしないといけないのかと思い少し息を吸い込み「そういう理由なんですね」と何とも言えない表情で答えた。
「そういう事です。今では身体強化のみとなります。また、マーシャルアーツを取り入れていますが、人格形成のためともなっています」
「そういえば、やりました。
対人戦はちょっとだけでサンドバックをずっと殴る蹴るしてましたけど……」
体を動かすのは割と好きだが、殴る蹴るなどは好きではないのでちょっとだけ退屈な時間だったと思い出す。
もっとも、いやな事があった時の憂さ晴らしには丁度良かったのだが。
私が言いにくそうな様子を見ていたマコトさんはそこで話を切り上げ次へと進める様に「他に質問が無ければ座学は以上です」と言った。
私はそれに対し「特にありません」と答えた。
会議室を後にし、1階の受付へと向かった。
受付窓口から先程の女性が笑顔で顔を覗かせた。
「座学は終わりですね?」
「ええ。これから仕事を受注していただきますので対応をお願いいたします」
マコトさんは受付の人と話を終えこちらに向き直った。
「さて、ヘセルさんには実際に今から仕事を受注していただきます。
座学の通り、端末か受付となりますが、今回は受付で行います」
ではどうぞと言う様に横に避け受付窓口に移動するように手で指示された。
受付窓口前まで移動し、「入試用の仕事を受けに来ました」と伝えた。
「はい。今回端末は無いのでタブレットに仕事内容を表示しています。
内容を読んだ後、一番下の受注ボタンを押してくださいね」
そう言い、タブレットを差し出してきた。
「そうそう、実際に受付窓口で仕事を受けて貰う時は、横のボードから選んで受注処理もできるから覚えておいてね」
横のボードを見ると、来た時には表示されていなかった仕事の依頼表題が表示されていた。
よく見るとランクごとに並んでいるようだ。
受付の人は
「そのボード、タッチ式でそこから受注も出来るのよねー。
私と話をしたくないならそっちから受け付けて貰っていいわよ」
と笑みを浮かべながら言った。
私は少し引き気味に「え……」と声が漏れていた。
「冗談よ。私が忙しい場合はそっちでやって頂戴ね」
「そういう事ですね」
取り繕う様に軽くははっと笑いながら返し、タブレットの内容をチェックした。
内容を確認した私は質問をするように聞いた。
「監獄エリアの掃除、ですか?」
仕事内容には49地区島国エリアにある犯罪者収容施設である監獄の掃除と書いてあった。
「ええ、犯罪者の各部屋のゴミの回収と汚れがあるのなら拭き掃除を
行っていただきます。
掃除と言っても簡単に思っているかもしれませんが人数が多いのでテキパキこなさないと終わらないのよね。
あ、私も同じ内容だったわよ」
「そうなんですか?……掃除をするだけなのに、ハンターの仕事になるんですか?」
「それはまぁ、他の人が面倒と思った仕事も来ますからね」
入会試験とはいえ、これでいいのだろうかと気になるところだけど、これはやはり、きっちり仕事をする姿勢を見ているのだろうかと思いつつ、「そういうものなんですね」といい、受注ボタンを押した。
「はい、受注完了です。
現地まではマコトさんが連れて行ってくれるので頑張ってきてね」
受付の人は私が差し出したタブレットを受け取り、小さく手を振った。
それに会釈し、マコトさんとハンター協会を出発した。
「そう言えば、何で行くんですか?」
歩きながらどこへ向かっているのか分からなかったため聞いてみた。
「あなたもここに来るときに乗ったと思いますが、水上バス乗り場になります」
洋上フロートと島国は水上バスでのみ移動が可能となる。
しかし、ハンター協会なら何か別の乗り物があるのかと考えたが移動手段は同じようだ。
「受注内容を見てましたけど今日中ですよね?水上バスは遅いのですけど間に合うんですか?」
「その辺はご心配要りません。
ハンター協会専用の水上バスがありますのでそれで移動します」
「やっぱり専用の物があるんですね」
「ええ、もっとも、通常の物とは少し異なる点がございますが……」
マコトさんは表情は変わらずだが、少し神妙な顔付きなように見え、人差し指で眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げ元に戻した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます