第三章:6

 声を荒げそうになったが想定通りの返答に、意識して身体の力を抜く。呼吸を一瞬止めて頭の中で一つ呟き、息を吐いた。声に力が入らないようにと喉に気をやる。



「……ばーちゃん、関係ねーだろ」


「関係ないことないでしょ。カナメが道踏み外してるって知ったら、ばーちゃん、めっちゃショックじゃん。俺のせいだ」


「クユルのせいじゃない。俺が決めてやってることだし、道も踏み外してねーよ」


「どれもこれもやってることはアウトじゃんか」


「じゃあ俺たちを育ててるオトナは、やってること、アウトじゃねーんか」


 言葉を詰まらせたクユルの返答を待たず、続けて「ばーちゃんのことは気にすんな。お互い様ってやつだね」と前へ向き直り、サドルに乗る。あぁ高さ合ってねーや、と独り言を呟きながら降りて、サドル下に折りたたまれていた調節に使用するための取手を引き出した。

 車輪の回転する音、靴が交互に地面を擦る音が近づいてきて「カナメ」と呼ぶ。取手を回す手を止めず、視線も向けなかったが、クユルは構わず続けた。



「俺、今までのカナメの努力をめちゃくちゃにしちゃってんじゃないかって」


「うん」


「俺と関わってるせいで、カナメが今までめっちゃ勉強してきたこととかが……全部パァになっちゃったりしないのかな、とかさ」


「うん」


「カナメは頭が良いから、馬鹿な俺といること自体、勿体無いんだろうなって」




 高さを調節し終えて、クユルを見ないままサドルに跨る。脚の長さに合っていることを確認し、支えていない方の足でペダルを引っ掛けて回し上げた。



「うん。そう。俺は頭が良いんだよ。だから俺自身で決めていることに、ケチつけてくんな」



「そうなんだけど」



「クユル、俺は自由になっちゃ駄目なんか?」



「え……」



「俺はクユルと一緒に、自由になりたい。その為なんだよ、全部。それは俺自身が決めたことだ」



「……」



「こいつだったらわかってくれる。境遇は違えど、俺たちは一緒だ。……そう思ってるのは、俺だけなんか?」

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