第二章:10
俺の報酬は全てクユルに預けてあった。これは、自分もクユルと一緒の仕事をやると主張した時に苦し紛れに思いついた提案だった。親父さんのことを『アイツ』と呼ぶクユルのことだから、その人間から俺が仕事をもらうことなど多少渋るだろうと予想はしていた。が、それも想像以上に抵抗されたため、言い争いに近い熱量で話し合った覚えがある。
クユルのお母さんが亡くなった次の日、夕暮れ。あの外階段に彼は座り、向かい合うようにして俺は立っていた。クユルが親父さんの仕事をすると話し、俺もそれに乗っかりたいと言うと、信じられないという表情で反発してきた。
「なんで?なんでカナメもやるんだよ!こんな犯罪じみたことをカナメがする必要ないって!良い大学に行ける頭があるんだから、将来良い仕事にも就けるだろ」
「それじゃ遅いだろーが。だからクユルも今からでも働きたいんでしょ。バレないようにするわ」
「バレないようにって……。もしバレたらどうすんだよ」
「働いていたことを無かったことにすりゃあいい。金銭の受け取りをせずに、万が一の時は『よくわからない状態で手伝わされていました』って逃げる」
「はぁ?そんなんで無かったことになるか?」
「クユルのことも、クユルのお父さんのことも、完膚無きまでに切り捨てる。騙されてましたって。脅されてたんですーとかなんとか言って泣いてやってもいい。つーか逮捕されても入学出来るだろうし。最悪、浪人するのもアリだ」
「浪人って、おい、カナメ」
「わかってる。だから、そもそもバレないように徹底する。これに関してはクユルも協力してほしい。いくつか守ってほしいことがあるから、パクられたくなきゃ必ず全部やり遂げろよ。卒業したら二人で一緒にやってくって話なら、俺等どちらかが捕まっても駄目なんだよ」
「いや。……いや、でも。俺はもう親も腐ってるからどうしようもないけど、カナメは違うじゃんか。カナメはこっち側じゃないっていうか」
「こっちとかあっちとかねーわ。俺たちは一緒だ。クユル、頼む。俺も自由になりたい。一緒にやれば金も倍貯まるし、これは絶対に二人でやった方がいいことなんだ。クユルが心配していることは俺が解決させる。だから、俺が働いた分の金、クユルが預かっといてよ」
俺を見る目は終始泳いでおり納得がいっていないのが伝わってきたが、そんなクユルが苦手とする理屈を並べ、時には情に訴え、結局無理やり丸め込んだ。現時点でいくら貯まっているかは知らないし確認したこともないが、それはクユルを信じているという美しい話ではなく、仮に使い込まれていたとしても諦められる自分がいるだけの話だ。
正規の方法では間に合わないほど俺たちには時間がなく、金が必要だった。卒業したら即、家を出る。一日でも早く、この息苦しさから解放されるために。ただただその一点のために、俺たちは日々を積み上げていた。
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