東国の勇者の場合21

2日目の朝。体制は昨日ベッドに倒れ込んだ時から一切変わっていない。この感じだと『すべて夢でした』という安易なオチはなさそうだった。

おそらく本格的な行動は今日からとなるだろう。勇者というものがこの世界においてどんな存在なのか、それは分かった。だからこそ思う、なぜ自分なのかと。勇者として描かれている人間像と自分とがあまりにもかけ離れ過ぎている。想像とあまりにも違い過ぎて厄介者とされてもかなわない。

「さて、どうしたものか。」

とりあえずの目標としては『生き残る』それを一番にしよう。なんだかんだ言って死ぬのは嫌だ。その為の行動を起こさなくてはならない。この国での存在価値を示すために。

扉の開く音が聞こえた。

すぐに体を起こして、扉の方に視線を向けた。

「おはようございます、ケンマ様。」

リニアさんが目が合うとそれに合わせて礼をしながら言ってくれた。

「おはようございます。」

こちらも軽い会釈で答える。

「本日ですが、少し街を見て回りましょう。そうすることで、この国の事を知っていただけると思いますので。」

確かに、そうするのがいいだろう。魔法について知ったり、もっとこの国の格闘技について知ったりしたいが、そうやってこの街を見て回ることが本来の約束だったはずだ。それを完遂することが先決なのかもしれない。

「わかりました。どんなところを周るかはリニアさんにお任せします。」

「かしこまりました。では、できる限り効率のいいようにさせていただきます。おそらく、ケンマ様のやりたいことは別にあるかと思われますので。」

この人は本当に仕事の出来る人だ。まるで心でも読んでいるかのように先手を打ってくれる。こういう従者がついてくれている幸運に感謝するべきだろう。

「ありがとうございます。心遣い感謝します。」

とは言え、街を周るのであればもっとやらなくてはならないことがたくさんあるだろう。さすがに今の格好では、たとえ勇者と言えども笑いものになってしまう。とりあえず学校の指定ジャージからは着替えた方がいいだろう。

「まずは、お召し物を変えましょう。勇者様らしい格好というものもございますので。」

リニアさんからの即座の提案、この人は本当に心を読んでいるのでは、、、、、、まぁ、そんなことはないと思いたい。

「わかりました。じゃあ、ついでに風呂に入りたいんですが、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫でございます。そんなこともあろうかと、ただいまお湯を沸かしておりますので。」

淡々と語るリニアさんを見て思った。この人は心が読めるのではなく未来が見えるのだと。絶対にそうだ。

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