東国の勇者の場合20
書庫を出ると外もう陽が沈み切っていた。とりあえず部屋に戻ることにした。だがまだ王宮の内部の事を覚えることができず、リニアさんなしでは帰れなかった。
「申し訳ありません。自分のことなのにリニアさんをこんなに付き合わせてしまって。」
「ご心配なさらなくて大丈夫です。何度も申し上げております通り、こういったことが私の仕事ですので。」
やっぱり何度も言わせていたらしい。むいしきでかなり言っていた可能性がある。今度からはちゃんと気を付けよう。
「すいません、以後気を付けます。」
軽く会釈した。
「あまり気になさらないでください。それより、もう陽も沈んでいます。今夜はもうお休みになられてはいかがでしょうか。」
「そうですね。なんだか疲れて夕食をいただく気分でもないので。」
気を抜いた瞬間にあくびが一つ出てきてしまった。
それを見ていたリニアさんが小さく笑った。
「どうかしたんですか?」
自分にとっての無防備なちょっと恥ずかしい部分で笑われてしまった腹いせにちょっと嫌味っぽく聞いてみた。
「申し訳ありません。ただ、最初の印象とは違って少し人間らしいところが出てきていらっしゃるので。」
そんなに、言われるほどロボットじみているのだろうか。
「あまりお気になさらないでください。私がそう感じただけですので。」
「あ、はい。」
そう言ってちょうど到着した今日目覚めた部屋に戻った。
別れた時の言葉は慰めの言葉だったのだろう。別に傷ついているわけではなったが、その心遣いをしてもらえるのが少しうれしかった。
気を抜くと体を疲れが襲う。残った体力を売り絞ってベッドに向かいそのまま倒れ込んだ。そういえば服もまだ着替えてない。今になってやっと目を向けることができたがこれは高校指定のジャージだった。
そういえば転移の直前は何をしていたのだろう。全くわからない。ほんとに記憶消失になってしまったかのようだった。転移の直前の数日間の記憶もなくなってしまっている。自分はいったいどうやってここに来たのだろうか。自分がここに来た意味とは何だったのだろうか。魔族を倒せというが、一体いつまで続くだろうか。自分が勇者として選ばれた理由はなんだったのだろうか。自分はここに居続けていいのだろうか。そもそもここに居続けたいのだろうか。帰りたいのだろうか。それとも帰った方がいいその程度の感情なのだろうか。大前提として元の世界に帰ることができるのだろうか。帰れたとしてそこから先はどうなる。またあの中に戻らなくてはならないのか。
考えたところで答えの出ない疑問が頭の中をグルグル回り続ける。
ふと気が付くと朝日が差し目を覚ましていた。
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