東国の勇者の場合19

「リニアさん、これって。」

「おそらくケンマ様が想像しているものと大きな相違ないかと思われます。」

冷汗が一滴頬を伝ってゆくのを感じた。正直この手記を見て驚愕した。まだうまく信じ切ることの出来ていない自分がいる。それに勇者であるとはいえ自分は今日この世界に来たばかりのよそ者である。得体のしれない人間にこれほどまでに重要なものを見せてよいものだろうか。なぜ今目の前の情勢は自分をここまで信用してくれているのだろうか。

 おそらく何か裏はあるのだろう。だが、これだけの信頼を示してくれたのだ。そこは素直に感謝をし、享受するとしよう。

「信用していただいてありがとうございます。この資料心して読ませていただきます。」

再度資料に目をやると本当に事細かく相手国の生活が書かれている。おそらく必要かもしれないと思ったことは全て書いているのだろう。

 当然であった勇者の特徴も異様なほど細かく書かれていた。

 当時、その国に現れた、勇者の容姿や、声、しゃべり方はたまた服装まで本当に様々な特徴を細部に至るまで書ききっていた。

 そして読み進めてゆくと勇者の生活の記録までびっしりと書かれている。毎日毎日、君に悪いストーカーのごとく監視している。食事や睡眠、訓練の時間の記録ならまだしも入浴やトイレの回数やかかった時間まで全て本当に事細かく記録している。

 勇者の生活リズムが全て書かれていた。書かれている本人が知ったらこれほど気味の悪いことはないだろう。少し同情してしまう。

 それほどまでに優秀だったということなだと心にしまっておいた。

「リニアさん一応ほかの勇者の記録も見せてもらえませんか。」

「はい、かしこまりました。」

そうしてリニアさんが持ってきてくれた次の勇者の記録に目を通し始めた。

 その行為を繰りかえし、国内外問わず全ての勇者の記録の今回知りたかったことは読むことができた。1時間弱といったことだろうか。

一応リニアさんに礼節としてお礼をしておこう。

「付き合ってもらってありがとうございます。」

「いえ、お気になさらないでください。こういったサポートも私の業務の範疇ですので。」

なんだかこのやり取り結構やってる気がする。まぁ、いいか今は関係がない。

 今回の資料で分かったことは2つ。転移で現れてから皆が判で押したように同じ行動をとっているということである。

この地に召喚されて、その直後に気絶し、目覚めた直後に自分が召喚された国の統治者に謁見しに行く。そのあとすぐ軍に所属し、そこの訓練によって魔法と戦闘技術を学んでゆく。

前半は自分も経験した。しかし、後半は違う。自分は独自調査をしたいと言って2週間のわがままを言っている。すぐ軍に所属し生きている問選択を取りやすくなるという心理はわかる。だが、自分のようにならなかった人間が1人もいないというのは流石に疑問が残る。

2つ目のわかったことはやはり記憶をなくして転移してきた人間はいないということだった。最初の事もここにかかわってくるのかもしれない。やはり気を戻さなくては全てが始まらないのだろう。振り出しに戻された気分だった。

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