東国の勇者の場合18
本棚の隠し扉の先に大量の本が並んだ部屋がある。広さ的には先ほどの書庫の4分の一ほどの大きさだろうか。それでも天井までの高さは変わらずに高く本が埋め尽くされている。
歴代の勇者の資料はここに全てあると言っていた。どうして隠しているのだろうかしかもこれだけの量だ。隠し通しておくには相当の努力と情報統制が必要になってくるだろう。しかし、この書庫自体の入り口には門番はいないし、扉自体はわかりにくい場所に設置し、地下にあり入りづらくなってはいるが、この王宮に出入りしていれば簡単に中に入れる。
そんな考え事をしていると大きな音とともに隠し扉が閉じていった。扉が完全に閉じ切り、部屋が暗闇で満たされた瞬間に真ん中の方で明かりがついた。小さなランプだった。
少し宙に浮いている。テーブルか何かに乗っているのだろうか?台のようなものがぼんやりと視認できるようになってきた。
すると、部屋の要所要所に、配置されている灯りが一斉に点灯していった。
「ケンマ様、どうぞこちらへ。」
おそらく魔法の力で行われたであろうことに驚いていると、リニアさんが椅子に腰かけるようにと促してきた。
椅子の前には少し面積の狭いテーブルが置かれていて、その上にはさっき一番最初に点いたであろうランプが灯りの消えた状態で置かれていた。
「ありがとうございます。」
お言葉に甘えて座らせていただくことにした。椅子はかなりクッション性のある物で、うまく体のラインにフィットしてくる。この感じなら長時間座っていても疲れないだろう。さらに肘掛けにも同様にかなりにクッション性があり、手を長時間おいて痛くなるということもないだろう。
本当に質のいいゲーミングチェアに座っているような感覚である。これはかなりいい椅子である。これだけいい椅子であるということはここに長時間籠っていても大丈夫だということと、ここに長時間籠る必要性があるということ2つの証明になっている。
「今から、ケンマ様には、我々アパン王国の秘密をお教えすることになります。心していてください。」
リニアさんに笑顔はかけらもない。自分同様少し緊張しているのかもしれない。
「はい、わかりました。」
返事に反応したかのように、リニアさんは本を物色し、決めると一冊を手に取り自分の目の前へと置いた。
「今からおよそ100年前の資料です。当然のことながら、私も国王陛下もまだ生まれてはおりません。その当時の資料です。」
出されたのは図鑑サイズの相当古い本だった。中世のヨーロッパを描いた映画に出てきそうな豪華な茶色い革のハードカバーに包まれた紙は状態が良い。しっかりと管理されているのがわかる。
やはり中身は見慣れない文字で書かれている。
「おそらく、ケンマ様も読むことができるはずです。歴代の勇者様がそうだったように。」
そういわれてから文字に目を向けると何となく読むことができた。
書かれていた内容は勇者が専用に作られた台座に現れるところから始まっていた。何かの光が現れてそれが人の形を成し、男の人間となってゆく。そのあとすぐに勇者は意識を失い倒れ込んでしまった。
それを見ていた男の手記。100年ほど前にアパンの隣国の『ゴーランド公国』にスパイとして潜入していた男の手記であった。
それが勇者の資料の正体であった。勇者の資料とは、他国に潜入しているスパイの手記であった。
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