東国の勇者の場合22
王宮にはとても広い浴場が完備されていた。広く丸いおそらくレンガ造りの浴槽の真ん中に大きな噴水があるのみで、それ以外に装飾品は一切ない。シャワーのようなものも設置されておらず、湯を頭から浴びたければ入る前に渡されたお手桶に汲んで浴びろということだろう。魔法とはそこそこ現代技術に比べると不便なのかもしれない。
一応、この浴槽が客人の来た時にもてなす用の物らしい。そりゃぁ、国王に会いに来る客人となれば身分の高い人間だろう。その割には、装飾があまりにもさみしい気がするが、しょうがないのだろう。身分の高いというということはそれだけ、暗殺というものを用心しなければならない。
さらに、入浴中というのは一番無防備だ。全裸で、武器を何一つ持たない状態で、そこに立っているのだ。居合わせた時に絶好のカモになってしまう。だったら、華美な装飾を一切なくし、シンプルにして暗殺者の隠れる場所をなくす方が敵意を示さない方法になるのだろう。それにこれだけ広ければ、敵襲があったとしても護衛と一緒に入ることもできるというものだ。
一様、勇者であるというところから敵の暗殺を恐れての気遣いらしい。そういった現代日本の高校生にはできない配慮をしていただくのは有り難いが、これだけ広い風呂は現代日本の高校生には落ち着く余裕がない。
ましてや背中においてある簡易的な仕切りの向こうにリニアさんがいるとなると余計に落ち着いていることができない。
「あのぉ、やっぱり、外で待っていただくことはできないですかねぇ。」
「申し訳ありません、ケンマ様の護衛も私の仕事の中に入っておりますので。」
「仕事ですか、、、、」
「はい。」
まぁ、最初は一緒に浴槽に入ろうとしていたから、それと比べればマシになったと考えよう。リニアさんはお湯につからず、服を着たまま。そして二人の間に策を設ける。折衷案でここまで持ってくることができたのだ、これ以上は諦めよう。
特にシャワーみたいなものがあるわけではないので、湯につかり体の汗を流しただけで別にシャンプーやボディーソープがあるわけではない。だから、それ以上に洗うことができない。少し物足りない気もするが、この世界のルールだ。慣れていくしかないのだろう。しかし、そういった過程のあった人間からすると、違和感がぬぐえないのも事実である。人間の適応能力を信じよう。
「じゃあ、そろそろ出たいのでタオルか何かもらってもいいですかね。」
「かしこまりました。」
そういってリニアさんは先に浴室を出た。
1分にも満たない安らぎの時間が始まった。一瞬でもいい湯につかり力を抜くというのがこれほどまでにリラックスできるものだとは。
「ケンマ様、ただいま戻りました。」
仕切り越しのリニアさんの声が終了時間を告げた。
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