第6話 ニート、ソロで二層に行く

【奈落 第二層】


 クロスは一層から続く長い階段を降りる、雰囲気はさほど変わりない。変わらない景色がさらにクロスを油断させる。6人組の姿は見えなくなっていた。6人組が倒して行ったであろうモンスターのドロップアイテムが放置されている。彼らにはもう取るに足らない物なのだろう。


「おこぼれラッキー♪」


 クロスはアイテムを拾う。毒トカゲの牙だった。少しがっかりするが、同じモンスターが出るのかとどんどんクロスの警戒が薄れていく。

 大ネズミが飛び出し、クロスは戦闘を開始する。先制で横一文字に斬る。一層の敵はこの一撃で倒せていたためクロスは倒した気になっている。しかし大ネズミは体制を立て直して鋭い爪で攻撃してきた。油断しきっていたクロスは爪攻撃をモロに喰らう。


「うぉ!?」


 革の鎧の上から胴体に爪は届き、クロスはダメージを受けた。クロスは反撃に突きを放ち、大ネズミを倒した。牙がドロップする。奈落は層が深いほど敵が強くなることは書記で知っていたが、一層と二層でここまで違うとは思っていなかった。クロスは急いで来た道を帰る。

 一層に戻る階段の奥に宝箱が見えた。クロスはもちろん取りに行く。


「すぐ近くだ、大丈夫、問題ない…」


 自分に言い聞かせて宝箱に向かう。宝箱を開けると中には鉄鉱石が入っていた。書紀によれば武器を作るのに必要な素材である。


「いいアイテムだ、取りに来てよかった…」


 振り返り戻ろうとすると、階段の前にモンスターがいる。見たことのないモンスターだ。朽ちた剣を持つ人型のソレは書紀でみたアンデッド系のモンスター、死人剣士か。立ち去るのを待つ事にしたクロスだが、こちらに向かってくる別のモンスターが視界に入る。ここで挟み撃ちは絶望的だ。

 クロスは覚悟を決めて階段に走る、死人剣士はクロスの背中を斬りつける。前方に走っていたため傷は浅い、何とか走り抜けたクロスは無事に一層に戻ってきた。大ネズミの爪と死人剣士の斬撃、さらには疲労もあり一層の敵にも苦戦する。動きのキレが無くなったクロスは毒トカゲの攻撃を避けきれない。何とか倒すが毒状態となってしまう。免疫の指輪は確定で毒を防げるわけではない。あくまでも毒に対する免疫を高める装備である。こんなこともあろうかと持ち込んでいた毒消しを使い、事なきを得るがもう後はない。

 入り口に戻るとモンスターはもう追ってこなかった。奈落のモンスターは奈落から出てきて暴れる事がある。だが、滅多には自分の縄張りからでることはない。

 空は少し黄色くなっている。水を飲んで少し休み、ボロボロの体を引きづりながらクロスはなんとか街まで戻ってきた。冒険者ギルドに入り、受付嬢の元に行く。


「結構やられたね、依頼はできた?」

「あぁ、毒トカゲの牙もってきた」


 クロスは報酬を受け取る。受付嬢はクロスに忠告する。


「二層に行ったみたいだけど、自分の力を過信するのはダメだよ」

「え、なんでわかるの?」


 ギルド証には魔力が込められており、到達層に基づき自動でレベルが書き換えらる。それは書紀でわかっていたが、受付嬢が見破った事が不思議だった。


「探索3度目の冒険者は結構みんなやるから、あなたの怪我具合を見て二層に行ったなって思ったのよ」


 なるほど、さすがは冒険者ギルドの受付嬢だ。クロスは怪我が治るまで探索を休む事にした。自分の意思で休めるのは冒険者のいいところだ。もちろん、無理のない範囲で筋トレや書紀による予習は怠らない。

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