第5話 ニート、ソロで一層に行く
クロスは当初、奈落にいけば簡単に稼げると思っていたが現実は全然違った。学生時代から他人にとやかく言われて作業するのが嫌だった。仕事とはまさにその象徴だろう。その点、奈落探索は文句を言われることは少ないため死ぬ可能性があるにも関わらず、クロスはそこまで嫌いではなかった。
現代社会で会社員として、死んだような毎日を送るのか。死ぬ可能性がある危険な冒険でも生を実感して生きるか。クロスは後者が向いていたというだけの話。
もちろん、全ての人がとは言わない。やりたかった仕事をやる人や、今の仕事に誇りを持っている人は決して死んだような日々の中には居ない。
クロスはまたしても筋肉痛に悩まされた。普段運動をしていない証拠である。さらに1週間ほど昼間は体を鍛え、夜には書紀を読み奈落の知識をつけた。そして再び奈落に向かうことを決める。
翌日 午前9時
クロスは冒険者ギルドに行くと、まずは待機中の冒険者を確認する。今回は初心者と冒険してくれそうな人はいない。初心者冒険者、欲を言えばジャンかマリーに会えることを期待して自分も一時間ほど待機するが誰も来なかった。
痺れを切らしたクロスは1人でも受けられる依頼を確認し奈落に向かう。
…………
【毒トカゲの牙を1つ納品】
報酬 200G
クロス Level 1
武器…青銅の剣
盾……木製の盾
頭……なし
胴……革の鎧
腕……青銅の籠手
脚……青銅の足鎧
装飾…免疫の指輪
パン×2
水ボトル×2
毒消し
…………
前回よりも装備は重くなっているが、奈落まで歩いても疲れなくなっていた。日々積み重ねた努力はしっかりと成果として現れた。クロスは1人、奈落に挑む。
【奈落 第一層】
前回の探索で一層の地形は覚えた。毒トカゲが出現するエリアを探索する。道中で大コウモリと大ネズミを討伐するクロスはほんの少しだけ冒険に慣れたと言える。
「あ、宝箱だ」
クロスは奈落の宝箱についての事は書紀で読んでいた。奈落では定期的に宝箱が出現する。奈落に飲まれた人間の欲望の産物で、深ければ深いほど、人の欲望を満たす強く強力なアイテムが入っている。
「これは、使えるな」
中身は青銅の盾、クロスはさっそく木製の盾と入れ替えた。
探索を続け、毒トカゲを見つける。
「シァアア」
飛びかかる毒トカゲの攻撃を回避し、反撃の縦斬りで倒す。初見の時とは違い、苦戦することもなく討伐に成功した。
勢いそのまま、牙がドロップするまで討伐を続けること4匹目。
「やっとドロップしたか…」
クロスは毒トカゲの牙を袋に入れた。後は帰るだけだが、少し疲れたためパンと水を使い休憩する。一組の冒険者が目の前を通っていく。6人組の冒険者達はベテランが2人ほどにビギナーが4人ほどの編成。全員強そうな装備を身に纏い、荷物も多い。深層に向かう冒険者はクロスのように毎日帰ることはなく、奈落で寝泊まりしながら進んでいく。
6人組が向かう方向に次の層に続く階段が見える。一層にいる大コウモリ、大ネズミ、毒トカゲを楽に倒せるようになった驕りがクロスの判断を鈍らせた。
「あの先に何か良いものがあるかもしれない」
クロスは安易な判断で単身、二層に向かう事を決める。
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